転生先はポケモン 34話

転生先はポケモン 34話

 

 闇の襲来


 ――ピ、ピピピッ!
 けたたましい音が聞こえてくる・・・。
「う、ん・・・・・・」
 意識が覚醒し、目覚まし時計の音だと理解した。
 目を閉じたまま腕を動かして、時計のアラームを止める。

「・・・・・・はぁ。ベベノム」
 前まではベベノムのペンキで起こされていたので、なんだか物足りないというか・・・・・・。
 それに正直、煩いアラーム音よりもベベノムに起こされた方が苛つきが少ないので困るな。

 問題のベベノムは、うなされている。
『ベベ、べ、べべべッ』
 最近はいつもこうだ。まるで何かに怯えているように。
 だから俺は、ベベノムの悪夢を取り払うよう頭を軽く撫でる。
 すると、安心したのか寝息が穏やかになっていく。
「ホント、手の掛かる悪戯っ子だ」

 まだ起きないベベノムを抱きかかえて、いつもの特訓に向かう――。
「うぉッ!? ――痛てッ!」
 玄関に向かう途中で何かに躓いてしまった。
「まったく。サトシの奴が何か散らかして――え?」
 俺が躓いた原因は物ではなく、者。

「ぐう。・・・・・・うーん?」
 バーネット博士だった。
「って、なんで此処で寝てるんだよ!?」
「ふわぁ。なんか部屋に行くのも面倒くさくて・・・・・・ぐう」
 そう言って、また寝てしまった。
 バーネット博士はこの時間、彼方此方ポケモンの観察しに行くのに、家に居るのは珍しい。
***

「だいぶ空が明るくなってきたな・・・・・・よし、ラストだ!」
 特訓開始から一時間。これ以上は人目に付く可能性があるので、最後の仕上げ。
「いくぞ、レックウザ! 《b》アルティメットドラゴンバーンッ!《/b》」
 リングを輝かせ、海の向こうへZ技を放つ!

「・・・・・・うん? おかしいな」
 技自体は出たが、
「パワーがしょぼい・・・・・・」
 いつもの半分以下の威力だ。
「うーん? 調子悪いのか? レックウザ」
 しかしレックウザは首を振る。確かに、Z技以外はいつも通りだったしな。
「とりあえず、今日の特訓はここまでにしておくか・・・・・・うん? ベベノム、何してるんだ?」
『べべッ、べッ』
 帰ろうとすると、突然ベベノムが砂浜に何かを描いた。
「これは、何だ? かがやき様ではないよな。何かのマークか?」
 一見、Zリングにハメ込む石に似ている。
「うーん、わかんね。とりあえず帰るぞー」

 レックウザを戻して家に帰ると、サトシが勢いよく跳んできた。
「ユウキッ、大変だ! 博士達がっ」
「あー、バーネット博士な。今日はなんか変だよな。って、博士達?」
 サトシの後ろを見ると、ククイ博士が起きてきてる、が。
「うぃーっす」
 いつも通りの半裸に白衣ではなく、シャツを着てピッタリと前も閉めている。

「・・・・・・ククイ博士、風邪?」
「うん? いや、別に。さみぃし」
 なん・・・・・・だと・・・・・・? 雪国ですら半裸の博士が寒いだと?
 怠そうにしてるし、やっぱり風邪じゃないか?
「というかバーネット博士、なんか鳴ってるけど?」
「うーん? ルザミーネからの呼び出しね。・・・・・・めんどくさい」
「行けよッ! あーもうっ、ちゃちゃっと朝ご飯作るから、皆は支度しろッ」
***

 朝ご飯を食べ終わっても、ぐうたらしている博士夫婦を外に叩き出してスクールに向かう。
「博士達、今日はなんか変だよね」
「やっぱり体調が悪いんじゃないか?」
 サトシと雑談しながら教室に入ると、マーマネがグッタリしていた。
「アローラ。どうしたんだ?」
「うぅっ。アロー、ラ。珍しくママが寝坊したんだ。それで朝ご飯を食べ損ねちゃって」
「ほーん。珍しい事もあるもんだな」
 気の毒に感じたからオレンの実を一つマーマネにあげていたら、他の皆も登校してきた。
「おっ、アローラ」
『・・・・・・アローラ』
 挨拶しても、反応が薄い。どうしたんだ?

「ねぇ聞いてよっ。お父さんったら、やる気が出ないとか言って朝の仕込みを手伝ってくれなかったんだよッ」
「俺もだ。配達前に必死でポケモン達の世話をしてきた」
 おいおい。マオとカキの所は働かないとマズいだろうに。

「一緒。お父さんも漁に出ないでゴロゴロしてた」
「ジェイムズの様子もおかしかったです」
 スイレンとリーリエもか。流石に何かおかしい。
 そこで、ククイ博士が白衣のポケットに手を入れて、猫背のまま怠そうに入ってきた。
「ちーっす」
 あんたは何処の不良だ。スカル団にでも入ったのか?
「ククイ博士? えっと、アローラ・・・・・・」
 ほら、マオが引いてるぞ。

「あー、そだな。えーっと。今日は明後日の皆既日食の日に行われる、マナーロ祭りについて授業を・・・・・・と思ったが、各自話合ってくれ。んじゃ、後よろしくー」
 そう言って、博士は出て行ってしまった。
 清々しい程の職務放棄だ。仕事しろ。

「マナーロ祭りって何だ?」
 サトシの疑問に答えるように、カキが立ち上がって黒板の前に立つ。
「仕方ない。マナーロ祭りについては、俺が説明しよう」
 カキは、ごほんっと咳払いをしてゆっくりと説明していく。

「アローラで21年ぶりに見られる皆既日食。この日はアローラの4つの島の島キング・島クイーンがそれぞれの遺跡に集まって、アローラ創造神話に語られる伝説のポケモンへ感謝の祈りを捧げるんだ!」
 
「マナーロって、どういう意味なんだ?」
「昔の言葉で『あなたとわたしは共に生きていきます』だな」
 マナーロって、何かに似てるんだよなぁ。あっ、
「なぁカキ。マナーロとアローラって似てるけど、関係あるのか?」
「あぁ。アローラには『分かち合う』って意味があるんだ。そして、二つ合わせると」
 ――分かち合って、共に生きていく。

 へぇ、アローラにはそういう意味もあったんだな。
 あれ、意外と授業してない? もうククイ博士いらないんじゃない? もうカキ先生でいいよ。

「はい、質問です。先程、話しに出てきたアローラ創造神話に語られる伝説のポケモンとは?」
 ククイ博士のクビについて考えていると、リーリエが手を挙げていた。
「もしかして、かがやき様か?」
「なんだ、ユウキは知ってたのか?」
「少し前に、図書館で神話の本を借りて読んでな」
『これが、かがやき様ロト』
 なんだか久々に見たような感じがするロトムの画面には、本・・・・・・そしてベベノムが描いたのと同じ絵が映し出された。

「かがやき様かー。どんなポケモンなんだろう」
 サトシの呟きに、リーリエが反応する。
「あっ、そういえば。お母様が幼い頃、寝る前にお爺様がよく語っていたのが、かがやき様の伝説だったそうですよ。そして、同じようにわたくしやお兄様にも聞かせてくれました」

「へぇーっ、どういう伝説なんだ?」
 気になるのか、サトシは話を聞きたがっていた。
「えっとですね――」

 ――かがやき様。この地に現れ、溢れる光で世界を満たした。
 光は不思議な力を持ち、我らがアローラは誕生した。
 しかし、光を出し尽くしたかがやき様は、黒くなり果て深く永い眠りについた。
 そこで太陽と月の化身が現れ、光を分け与えた。
 眠りから覚めたかがやき様は再び光り輝き、空の果てへと飛んでいった。

「――以上です」
 リーリエの語りに拍手喝采の中、サトシが何かに気付く。
「もしかして、太陽と月の化身ってソルロックとルナトーンかな!?」
「いや、ソルガレオとルナアーラだろ」
 なんで伝説のかがやき様にソルロックとルナトーンが並んでるんだよ。・・・・・・いや、宇宙から落ちてきたポケモンと言われてるしワンチャン・・・・・・ないか。

「その話だと今もウルトラホールの先に、かがやき様がいるかもしれないのか?」
「おとぎ話でなければ、そうかもしれませんね」
 それなら一度見てみたいな。まぁ、アルセウスと同じような創造神話のポケモンだし、難しいだろうな!
 ・・・・・・いやアルセウスと会った事あるわ。もはやフラグにしか聞こえない。
***

 お昼になり、机を囲むが、マーマネはグッタリしたままだ。
「マーマネ、まさか弁当無いのか?」
「うん。おしまいだよ、僕の人生」
 生きるのを諦めないでっ。これを期にダイエットでもしたらどうだろうか、なんては言えないな。

「困った時はお互いさマッギョ、マンキー、マンタイン!」
 悲報。俺の弟がおかしくなった件について。
「は? なにそれ。余計にお腹が空くんですけど」
 ほら、マーマネに真顔で返されてるぞ。恥ずかしくないの?
「サトシまでおかしくなったの?」
 皆にまでジト目で指摘されて、流石のサトシも顔が真っ赤。
 あれ? サトシの照れ顔って何気にレアだな。嬉しくないけど。

「違うって! アローラだよ、分かち合いっ」
 そう言ってサトシは、サンドイッチを一つ、マーマネの机に置いた。
「んじゃ、俺も」
「あっ、あたしも!」
 皆も一つずつオカズを置いていき、気付けば俺達の弁当よりも豪華だ。
「うぅっ。皆、あ゛り゛か゛どー」
 後ろを見ると、トケデマルもピカチュウやベベノムに持たせておいた木の実を分けて貰っていた。
『いただきます!』

 皆が食べながら雑談している中、俺は外の様子が気になっていた。

「なぁ。少し前から天気がおかしくないか?」
 昼前から黒い雲が空を覆って、今にも雨が降りそうな天気だ。

「確かに、どんどん暗くなっていきますね」
「嵐の前ぶれ」
 スイレンが不穏な事を呟いた時、鐘が鳴った。

「ウルトラガーディアンズ出動要請!?」
 しかし、いつも号令を掛ける博士は居ない。
 そこでサトシが黒板を動かした。
「俺がやるぜ!」
 ゲートが反応し、基地への道が開いた。
 ククイ博士じゃなくても起動出来るんだな・・・・・・。
***

 いつもの変身バンクという辱めを受け、基地へと到着。
 しかし、モニターに映ったルザミーネさんの姿は衝撃だった。
『あぁ、アローラ。ガーディアンズの皆・・・・・・準備はいい?』
 キリッとしているルザミーネさんは何処に行ったのか、今の姿は髪がボサボサのダメウーマン。

「お、お母様! 人前では身嗜みをキチンとして下さいッ」
 リーリエは恥ずかしそうだ。そりゃ、自分の親がだらしない所を皆に見られると恥ずかしいよな。
『んー。至急、日輪の祭壇に行ってちょうだい。詳しい話はそこで合流してから・・・・・・じゃ、後で』
 ――ズコーッ。
 決め台詞を言わないという、予想外の事で皆は転けてしまった。
 ラッキー! 今日は台詞を言わなくても――。
「ラッキー! 俺やりたかったんだッ。ウルトラガーディアンズ、ただちに出動せよ!」
『ウルトラジャー!』
 おのれサトシィ!
***

 ライドポケモンを飛ばして、日輪の祭壇に到着。
「あっ、バーネット博士も来てる」
 サトシの視線を辿ると、博士の他にもザオボーやビッケさんも来ていた。
「大人組は怠そうだな」
 全員集合と思ったが、ルザミーネさんはあと一人来るという。
 
 ルザミーネさんやビッケさんのボサ髪を眺めていたら、突然強風が吹いてきた。
「待たせたな」
 上から降りて来たのは、オンバーンに乗ったグラジオ。

「お兄様!? どうして?」
「シルヴァディが怯えている。その原因がウルトラビーストだとしたら、相当に危険な奴だ」
 リーリエとの会話中、グラジオの視線は俺の肩に止まった。
「まさか、ソイツはウルトラビーストか?」
「あぁ。ベベノムって言うんだ」
 グラジオの視線が鋭いな。シルヴァディの怯えの原因かと思っているのか?

「ベベノムは危険か?」
「あぁ、危険だな」
「っ、やはり!」
「飛ばしてくるペンキで勝手に落書きしたりするからな!」
 まぁ、最近はしないんだけど。
「・・・・・・そうか」
 あれ? グラジオの視線が呆れに変わってる。

「お母様、今回のミッションは?」
「順を追って話すわ。・・・・・・バーネットが」
 仕事しろ。
「えーっと・・・・・・昨日から、アローラ地方のウルトラオーラの数値が減少を続けていてね」
「そのせいかモグッ、私たちのやる気もはぐっ、急速にモグモグ・・・・・・減少しているんです」
 ビッケさんはビスケット食べながら説明すな!

 そこで、ルザミーネさんがやっと口を開いた。
「でも、何故か子供とポケモンには影響が出ていないの」
 なるほど。だから今日はククイ博士達がおかしいのか。

「調査の結果、ウルトラオーラ減少の原因はこの近くに開いた、小さなウルトラホールだと分かったわ」
「そこにもぐっ、ウルトラオーラがモグモグ、吸い込まれたんですねー」
 ビッケはいい加減にしろ。

「もしかしたら、そういう性質を持ったウルトラビーストが、向こう側に居るのかもしれない。という訳で、ウルトラホールの位置を特定したのだけど・・・・・・」
「ザオボーのマシンで・・・・・・ザオボー!」
 端っこで携帯ゲームをしていたザオボーを、ビッケさんが怒鳴って命令した。・・・・・・ビッケさん恐ぇ。

「えっと。この空を覆っている雲が邪魔でして・・・・・・そこで私が開発した雲粉砕マシンの出番ですね」
 確かに、黒い雲が邪魔で太陽も月も見えない。

「今回のミッションは、皆さんのZワザでこのマシンを起動させ、雲を取り払うことです」
 Z技か・・・・・・。
「今日の朝、特訓でZ技を放ったけど、威力が落ちてたんだけど」
 バーネット博士は、持っているタブレットと動かし、画面を見せてくる。
「なるほどね。最近の研究では、Zパワーは、ウルトラオーラと密接な関係があるとわかってきたわ」
 それで上手くいかなかったのか。でも、それだと今回のミッションは失敗か?

「んー。例えZパワーが不足していても、五人くらいのZワザが集約すれば、マシンは起動しますよ。多分」
 多分かよ。Z技が使えるのは、俺とサトシ。グラジオにカキとスイレンか。丁度五人だな。

 それぞれマシンの前に立ち、Z技を発動させる。
「やるぜ! 《b》スパーキングギガボルト!《/b》」
「墜ちろッ、《b》ワールドエンドフォール!《/b》」
「燃え上がれッ、《b》ダイナミックフルフレイムッ《/b》」
「《b》スーパーアクアトルネード!《/b》」
「《b》アルティメットドラゴンバーンッ!《/b》」

 一つのZ技の威力は弱いが、五人分のエネルギーが束になって、絶大威力のZ技がマシンにぶつかった。

 技を受け止めたマシンは、激しく揺れた後、エネルギーを空へと放出する。
「作戦、成功ね」
 黒い雲が取り除かれ、夕日が顔を出した。

「じゃ、ウルトラホールの位置を調べるわね」
 バーネット博士が離れた後、ルザミーネさんが遺跡の中へと俺達を手招く。
「調べている間、皆には見て欲しいモノがあるの」

 遺跡内を進みながら、ルザミーネさんが説明する。
「つい最近、この日輪の祭壇の奥に新たな遺跡が発見されたのよ・・・・・・これね」
 奥へと進んだ先には、壁画があった。
「かがやき様!?」
 その両隣にはソルガレオとルナアーラ。その下には、今朝ベベノムが描いたマークがあった。

「この周りに書いてあるのは、古代文字よ。この文章を解明することで、伝説の謎が解けるかもしれないの」

 他の壁画も眺めていると、スーツに付いている通信機が響いた。
『皆、今すぐ来て!』

 急いで遺跡から出て、バーネット博士達の元に行くと、異様な雰囲気だった。
「どうしたの!?」
「ウルトラホールの位置が特定できたんだけど、穴がどんどん大きくなってるの」
「ウルトラホールが!? 位置は!?」
 ルザミーネさんが戸惑い、バーネット博士が指さした先は、
「月?」
 ウルトラホールなんて無い――いや、開いてる!

「シルヴァディ!」
「レックウザ!」
 ウルトラビーストに備え、グラジオがシルヴァディを出し、俺もレックウザを呼び出す。

 すると、月の真ん中から広がりだしたウルトラホールの中から、一体出てきた。あれは――、
『ルナアーラ!?』
 皆がソルガレオに続いて、伝説のポケモンに会えた事に嬉しさで騒いでいるが、俺は不安の胸騒ぎが止まらない。

「あのルナアーラが、ウルトラオーラを吸い取っていたという事でしょうか?」
 違う。まだナニか、来るッ。

「なんだ、あれは・・・・・・」
 
 ルナアーラが出た後、ウルトラホールを更に裂いて出てきたのは、黒いナニか。

『べべッ・・・・・・』
 戦慄が走る叫びで飛ぶ黒いソイツを見て、ベベノムはギュッと俺の背中にしがみついた。

 襲来する黒い塊。
 それは――闇そのものだった。