変態教師は触りたい。5話

変態教師は触りたい。5話

 変態教師は着飾りたい
 

 日曜日。
 それは、家族と過ごしたり、友人と遊んだり。
 あるいは、恋人との甘美な時間を楽しんだりする休日。
 
 学生にとっては、青春の一ページを刻んだりする日。
 だが、この男は別だ。

「ふむ。(あの子のスカートもう少しで捲れそう。あっ、胸デカいな)」
 西園寺金継。ただいま、お洒落なカフェで視姦中。
「はぁ。(ちっ、あの可愛い子は彼氏いるのか。――っ、今の子めっちゃええ匂いした!)」
 この男の休日の過ごし方はコレである。
 街に出掛けて、女の子をひたすら視線で舐め回す。
 
 だが、一回も職質などはされていない。
 顔がいいから? それもある。
 不細工な男が同じ行動をしたら、即刻ブタ箱行きだろう。
 理由はもう一つ。
 ここで、周りの声を拾ってみよう。

『ねぇ見て、あの人めっちゃイケメンじゃない?』
『ホントだー。・・・・・・でも、アレって』

『おい。あのイケメン見てみろよ』
『あん? ・・・・・・イケメンだけど、なぁ』

『ままー。あのおにいさん、へんなのー』
『シッ。見ちゃイケません』

 周りの視線は、最初に西園寺の顔に行く。
 そして服装を見て、目を逸らす。
 そう、ファッション不細工なのである!
 今の服装は、ダメージが入りすぎてボロボロなジーンズに、ヒョウ柄のシャツ。
 お前は何処のホストだと。裏世界の帝王なのかと、ツッコむレベルでクソダサい。

「ふっ。(今日一番可愛かったのは、ここの店員だな)」
 こうして暢気にしていても、周りは見ないふりをするので、不審者は不審者でも、声はかけられない。
 ついでに、西園寺が密かに期待している逆ナンも、無い。

「はうー。ケーキの良い匂いがするー」
 ここで、本日の犠牲者が来店した。
「む? 奇遇だな、藤原」
「あーっ、西園寺せんせー。奇遇です、ね゛!?」
 藤原書記、愕然。
「どうした? 見たところ席は埋まっている。しかし何故か俺の周りは空いているから、隣に座るといい」
「へあ゛ッ!? うーんと、えーと・・・・・・はい」
 藤原は必死に他の席を探すが、断念。
 渋々、西園寺の隣に座った。
「ふむ。今日は買い物か?」
 どうやってこの場から逃げだそう、と策略を巡らしている藤原に気付かず、西園寺は藤原に話掛けた。
「は、はい。ウィンドウショッピングしてたら、小腹が空いたので、この店に」
 甘い匂いに誘われた結果、藤原はこうして精神的ダメージを受けている。
「せんせーは、どうして此処に?」
「俺は、この店に休日よく来るんだよ」
 藤原は、この店を要注意店に定めた。
 長居しないように、紅茶を一杯だけ注文した藤原は、できるだけ他人に見えるよう、外に視線を移す。

 藤原千花。彼女は、西園寺を好意的に思っている。
 無論、男性としてでは無く、一人の教師として。
 いつの日か、男性として意識する日が来るのか分からないが、来ない事を祈っている。
 閑話休題。好意的に思っている教師が、実はファッション不細工野郎だとは思わず、ショックを受けている藤原。
 一つ、また一つと、昨日までの西園寺像が崩れていく。
「・・・・・・せんせー」
「なんだ?」
 休日に、お気に入りの生徒と会えて有頂天な西園寺は、ご機嫌に返事を返す。
「――い、です」
「む? なんだって?」
 彼女が理想を守る為、地雷原に向かって走りだした事に気付かず。

「その服装! クソダサいですッ!」
「・・・・・・え?」

 ――その瞬間、店は静寂に包まれた。
***

 あまりの発言に、意識が飛んだ西園寺だったが、深呼吸をして落ち着いた。
「ふ、藤原。俺の、その・・・・・・服がなんだって?」
「ダサいです。有り得ないです。本当に現代人ですか? それとも一周回って時代を先取りですか? 未来人は帰ってください」
「ふぐぅッ・・・・・・」
 戦場を駆け抜けた兵士は変わる。
 容赦なく、西園寺の弱点を抉っていく藤原。
「せんせー、学校ではカッコイイ黒スーツだから、私服もカッコイイと思ってたのに」
 グチグチと文句を垂れる藤原に、この店の店員は『よく言った!』と賛美の視線を送る。

「はぁ。ちゃんとその顔に責任を持って、ファッション誌とか読んでくださいよ」
「・・・・・・若者のチャラい格好なんてしたくない」
「チャラいって、その服装でよく言えますね。というか、文句を言える立場じゃないって分かってます? その服は、もはや犯罪です。見る者の精神を低下させる兵器です」
「酷いッ」
「酷いのは、せんせーの姿です」

 はぁ、やれやれと。心底疲れた様子を見せる藤原。
「正直、その服を着たせんせーの近くに居たくありません。帰ります」
 すっかり冷めた紅茶を一気飲みして、席を立った。
「・・・・・・そうか。俺の服は、ダサかったのか。まぁ、そうだな。薄々気付いていた、かもしれない」
 突然語り出した西園寺に、藤原は歩みを止めた。
「俺には、ファッションセンスを指摘してくれる友が居なかったからな。感謝するよ、藤原。厳しい家の方針で、こういう俗な事はからきしだったから。仕方ないなんて言わない。ちゃんとファッションについて勉強するよ。初めての事で不安だけど、頑張る」
 かなりの精神ダメージを負った西園寺は、知らずのうちに素の喋りになっていた。
 独白を聞いた藤原は、西園寺の肩に両手をガッシリと置いて、
「そういう事は、先に言ってくださいよ」
「うん?」
「ママに任せて!」
「うん!?」
 素の喋りで先程の事を聞いた藤原は、母性本能を発揮させた。
***

 場所は移り、メンズのアパレルショップ。
「とりあえず、せんせーのファッションセンスを確認しましょう。いえ、酷いのは分かってるんですが、好みの傾向とか見たいので」
「あ、あぁ」
 西園寺は、店内をぐるりと見て回り、良さそうな服を持って試着室へと向かう。
「はいストップです」
「まだ着替えてないぞ」
「着替えなくても分かる酷さです。単体で見れば悪くないのに、なんで変な組み合わせにしちゃんですか」
 頭が痛い仕草をした藤原は、近くに置いてあるシャツとジーンズを西園寺に渡した。
「じゃ、これ着てください」
「お、おう。・・・・・・適当に選んでないよな?」
「適当に決まってるじゃないですか。でも、せんせーが選んだやつよりマシです」
 納得いかない様子の西園寺を、強引に試着室へと押し込む藤原。

 数分後。
「本当にさっきのよりマシなのか?」
 そう言って、試着室のカーテンを開けた西園寺。
「なんですか? 現役女子高生のファッションセンスを疑ってるんです、か――」
 暇つぶしにスマホを弄っていた藤原が顔を上げると、視線をすぐに逸らした。 
 それは、先程の『ダサい』からという理由ではなく。
「どうした? ・・・・・・まさか、似合わない――」
「い、いえッ。違います! そのぅ、あのぅ・・・・・・」
 アタフタと、顔を紅くして手を振る藤原。
 そう、照れている。
 今日はクソダサい西園寺と居たため、急なイケメンシフトに乙女のハートがレボリューションなのである。
「よく分からんが、変では無いと?」
 藤原は、風切り音が鳴るレベルで首を振って肯定を示した。

 結局、藤原が選んだものに加えて、アドバイス通りに三着程の服を買った。
「礼を言う、藤原。これからは、この服を基準にして買っていこうと思う」
「えぇ、はい。そうしてください・・・・・・」
 並んで帰り道を歩く藤原の表情は、グッタリとしている。
 ダサい服を手に取る西園寺を止めたり、自身が選んだものを渡すと格好良さに赤面したりと、疲れが溜まっていた。
「それじゃ、私はこっちなので」
「ん? あぁ、じゃあ学校でな」
 それぞれ反対方向を歩く二人は、溜め息を同じタイミングで吐いたが、思考は違っていた。

「・・・・・・はぁ。(会長や、せんせー。格好いい人って、なんで何処か残念な所があるんだろう)」
「・・・・・・はぁ。(あれ? 今日のって完全にデートだよな!? やっべッ、今晩のネタが出来たわ)」

 疲労と恍惚。
 二つの息は、空に溶けていった。

 ――本日の勝敗『引き分け』
 両者共に、深い精神的ダメージを受けた為。