転生先はポケモン 31話

転生先はポケモン 31話

 ユウキの華麗なる一日

 ポケモンマスターに最も近い男の朝は早い。

 AM05:00
「んごッ! ベベノム・・・・・・その起こし方は止めろっての」
 ユウキの朝は、顔に付いたベベノムの液体――もとい、ペンキを拭き取る所から始まる。

Q 朝、早いですね?
「ははっ、体調管理は大事ですからね。それに、この時間じゃないとコイツらの特訓が出来ませんから」
 ユウキは外に出ると、手持ちのポケモン達を全員出してバトルロイヤルを開始させた。
「俺なんかが強いって言われてるのは、コイツらの支えがあってこそですから。しっかりとスキンシップしませんと」
 バトルロイヤルから脱落していくポケモンを、介抱しながら語るユウキの眼は何よりも真剣だ。
 やはり、一切の妥協は無い。ユウキの誇りは、其処にあるという。
 そこから一時間程経ったところで、ユウキはポケモン達を戻した。

 Q 特訓は終わりですか?
「いえ、ああ、コイツらのは終わりですよ」
 苦笑したユウキは軽く準備運動をして、突然走りだした。
 慌てて併走し、いきなりどうしたと問う。
「トレーナーも特訓しないといけませんから。案外大切なんですよ?」
 そこで速度を上げたユウキには着いて行けず、家の前で待機する事にした。
 
 AM07:00
 ジョギングから帰ってきたユウキは、朝ご飯の準備を開始した。
 お湯を沸かし、サラダやハムを細かく切る。
 今日の主食はトーストらしい。
 スクールがある日は、このような献立だという。
「効率の面もありますけど、これを食べないと朝を迎えたって感じがしないんですよ」
 木のボウルにサラダを盛り付け、テーブルに並べる。
 きっちり四人分並べたユウキは、他の住人を起こしに向かった。

 AM07:30
 食事を終えたユウキは、身支度をして玄関に向かう。

 Q もう登校ですか?

「シッ。静かに」
 私を静めるユウキ。
「耳を澄ましてください。声がほら、きた。きたきた」
 確かに、遠くからうめき声のようなモノが聞こえる。
「モンスターの鳴き声です」
 どうやら、別の島に居るはずの未婚女性の声らしい。
「ほら、バーネット博士とか近しい年齢の人がドンドン結婚しているでしょう? 彼女、それで焦ってるらしくて、男をみたら襲ってくるんです」
 ユウキは、「島クイーンなのに、何故モテないのか?」と呟いて息を潜めた。

 AM07:50

「ふぅ。もう行ったかな」
 沈黙を破ったのは、ユウキであった。
「これ以上は遅刻しちゃいますからね。見極めが肝心なんです」
 タイミングを間違えると、向こうに引きずり込まれる。
 ユウキの貞操が無くなるかもしれない、危険な作業なのだ。

 AM9:30

ポケモンマスターに最も近いとはいえ、ユウキは勉強を怠らない。
「じゃあ、この問題は・・・・・・ユウキ」
「はい。この卵のグループを合わせると――」
 ブリーダー顔負けの知識を、ペラペラと答える。
 その姿は、本職のポケモンブリーダーの様であった。
 
 Q 何故、そこまでの知識を身につけるのですか?
「本当に強いトレーナーは、ポケモンの事を深く知る必要があるんです。強さを求めるのなら、配合知識は基礎ですからね」
 そう語るユウキの表情は、何処か遠い所を見ているようだ。
「まぁ、俺の場合は単なる趣味です」
 そう締めくくり、ユウキは黒板へと目線を向けた。
「そこー、授業中だから静かになー」

 PM12:00
 昼休み。皆の机を並べて、弁当を広げる。
「あっ、ユウキの弁当美味そう」
 級友であるマーマネの視線は、ユウキの弁当に釘付けだ。
「相変わらず凄いよねー。サトシの分も作ってるし――て、なんで今日はお弁当箱の中身が三人とも同じなの?」

 Q 毎日お弁当を作るのは、大変でしょう?

「まぁ、そうですね。でも、昼ご飯は大事ですから。それに、サトシは俺の弁当を食べないと午後は瀕死なんですよ」
 苦笑するユウキに反応して、サトシはブンブンと首を縦に振る。
「ねえ。何で弁当同じなの? ねぇ、聞いてる?」

 PM16:00
 授業が終わり、放課後になった。

 Q 帰宅ですか?
「うーん。今日はちょっと買い食いでも、と」
 そう言った彼に着いて行き、街に繰り出す。
 
「ほら、お前はこれな」
 ユウキはマラサダを二つ買うと、片方を肩に乗っているベベノムに与えた。
 偶にこうしてベベノムに構わないと、次の日の朝が辛くなるという。
 ベンチに座って、仲良くマラサダを食べる彼らの姿は、長年連れ添ったパートナーの様に見える。
「コイツは悪戯さえしなければ、良い奴ですから」
 笑みを溢すユウキの背中は、ペンキに塗れていた。
 
 PM18:00
 今日の夕食当番は、ククイ博士らしい。
 ユウキは時間まで地下の研究室で作業をするみたいだ。
 パソコンと向きあうと、まずはメールチェックを始めた。
「ほーん。アイツ、またコンテスト優勝したのか」
 カタカタと凄い速さでタイピング音が鳴り響く。

 Q 誰ですか?
「ん? 昔、共に旅をした仲間ですよ」

 Q 女ですか?
「え? え、えぇ。はい」

 Q 誰ですか?
「いや、だから、ちょっ、近ッ、やめッ――」

 PM20:30
 疲弊していたユウキは、夕食を食べて回復したようだ。
 コーヒーを啜り、テレビに映るニュース番組を眺める。
『少し前に現れたニューヒーロー、バンギライガー。彼の連勝記録は何処まで伸びるのかッ!?』
 
 Q バンギライガーとユウキ。どちらが強いんでしょうか?
「へッ!? あー、うん。彼と俺は、実力が拮抗している、感じがするなぁ」
 目線を泳がして言うユウキは、何処か焦っているように見えた。
 やはり、実力が近い者が居ると焦ってしまうのだろうか?

 PM21:30
 今日の汗を流すため、ユウキは風呂に向かう。
 
 Q 先に洗うのは、頭ですか? 体ですか?
「ちょっ、何で着いて来てんの!? 博士ーッ、ククイ博士ー!」
 
 PM22:00
 ユウキはこれから寝るという。

 Q 随分早いですね。
「そうかな? まぁ、明日も朝から特訓だしね」

 Q 毎日続けるのは、辛くないですか?
「そりゃあ、始めは辛かったよ。このまま強さを求めて、何処に行くのかってね。でも、トレーナーとしてコイツらの事を考えた時、何か吹っ切れたんだ」
 枕元に置いたモンスターボールを、ユウキは指で突いて転がす。

 Q いずれは、ポケモンマスター。ですか?
「それも考えたけど、それは主人公の・・・・・・サトシの夢さ。俺は気ままに旅ができればいい。今は、とりあえずスクールを卒業、かな」
 主人公とはよく分からないが、天井を見つめるユウキの瞳に迷いは無い。

 PM22:30
 消灯し、部屋は闇に包まれた。
 彼の寝顔は穏やかで、いい夢を見ているようだ。
 明日の朝、ユウキの一日はまた、特訓から始まる。

 ――End。

***
「おいコラ」
「起きていたようだ」
「何しれっと布団に潜りこんでんだ、スイレン」
 注意をしても、悪びれてねぇし。
「寝ているかと思った」
「不穏な気配を感じたんだ。てか、いつまでその変な喋り方してんの?」
 昨日、スイレンは俺に取材がしたいと言ってきた。
 別に断る理由が無いから受けたんだが、
「結局この取材はなんだったんだ?」
「この前テレビでやってたから、やってみたいと思って」
 特に深い理由は無かったみたいだ。
「てか、何で今日も泊まりに来てんだよ。夕方で終わりの筈だろうが」
「興が乗った」
「とりあえず出てけ」

 強引に布団から摘まみ出し、「あふんッ」と聞こえる声を無視して寝返りをうつ。
「明日のお弁当は、おにぎりがいい」
「・・・・・・またマオに睨まれるなぁ」
 もう取材はこりごりだと溜め息を吐いて、目を閉じる。

 その夜の夢は、金髪と緑髪の般若に追いかけられる夢だった。