打ち上げ花火、皆と見るか?青色と見るか?
アセロラシックから翌日。
発作が治まった俺は、家で大人しく読書をしていた。
「ユウキ、なに読んでるの?」
ニャヒートと遊んでいたサトシは、俺の持ってる本が気になったのか目の前までやってきた。
「ウラウラ島の図書館で借りた本。なんか気になってな」
メレメレ島に帰る直前、図書館で見かけたこの本の表紙に惹かれて持ってきてしまった。
「ふーん。描いてあるソレってポケモンなの?」
サトシが指さすのは、表紙に描かれているポケモン。
「かがやき様って言うらしい。ポケモンってよりかは――」
一通り読んでみると、このかがやき様はアローラ地方が出来たばかりの頃に現れたらしいポケモン。だが、その立ち位置はディアルガやパルキアなどの神話に近い。
「ウルトラビースト、なんだろうな」
ページの中には、ソルガレオとルナアーラも一緒に描かれているし、恐らくそうなんだろう。
「へーっ、会ってみたいなー!」
かがやき様の姿を想像して鼻息荒く興奮するサトシ。
「ま、お前ならそのうち会えるんじゃないか?」
サトシさんは伝説との遭遇率が半端じゃねーからな。
「って、そろそろ待ち合わせの時間じゃんっ。急がなきゃ!」
「うん? あぁもう時間か。着替えるから先に行っててくれ」
今日は花火大会があり、皆と見る約束をしている。
せっかくだし、甚平に着替えてから行くかね。
「じゃ、先に行ってるぜ! ユウキも早く来いよなっ」
「おーう」
慌ただしく出掛けるサトシを、ヒラヒラと右手を振って見送り立ち上がる。
「さて、着替え__」
『ベベッ』
・・・・・・。
お風呂も入らなくちゃ。
「時間、間に合うかなぁ」
『ベーベッ』
「お前はハウスな」
ペンキを飛ばしてきた奴をボールに戻し、急いで風呂場に向かう。
***
「あー、ギリギリだよ。くっそ、お前のせいだからなっ」
『ベベッ、べッ』
「っぶねっ、飛ばしてくるな!」
約束の時間まであと少し。走っても間に合うかどうかなのにベベノムは併走しながらペンキを飛ばしてくる。
「おまっ、これ遊びじゃないからっ。やめろぉ!」
楽しそうにしているが、わりかしマジでやめてほしいッ。
「ん? どうしたベベノム」
すると、急に動きを止めたベベノム。
『べべー』
「待てって! ちょっ、時間が、あぁもうっ」
スーッと何処かに飛んでいくベベノムを追いかけるが、こりゃ遅刻確定だ。
花火大会の会場が近いのか観光客も多くなり、屋台もちらほら見える。
人混みを避けながら追いかけると、少し先でベベノムが止まっていた。
「やっと捕まえた。いきなり飛びやがって」
ベベノムの角の部分を掴み、立ち止まった場所を見る。
「こんな所に一体なにがあるってんだ」
そこは、縁日に必ずある、うさんくさいアクセサリーなどがぼったくり価格で置いてある店だった。
『ベッべ!』
ベベノムが訴える先には、稲妻の形が彩られたネックレス。
「・・・・・・欲しいのか?」
『べべ!』
そういや、何でかコイツはピカチュウに懐いてるんだよな。
これを見てピカチュウを思ったんだろうか。
「悪戯を控えたらな」
『・・・・・・べべ!』
返事が怪しいが、まぁいいか。この前ラティアスにアクセ買ったばかりなんだけどなぁ。
「仕方ない。すいません、それ下さい」
「あいよ。一万円ね」
「高ッ!?」
***
『べっべ、べーッ』
首にネックレスをぶら下げたベベノムは、ご機嫌な様子。
「だけど、皆は不機嫌になってるんだろうなー」
もう約束の時間は過ぎている。急いで行って土下座せねば。
「うーん。ここら辺よね」
さて、早く皆の元に行かねば。
「おっかしーわねー」
・・・・・・早く皆の元に。
「この辺――」
「だぁっ、さっきから何だよ!?」
わざとらしく俺の後ろを着いてきてブツブツ言いやがって。
「女の子が困ってるのよ? 助けなさいよ」
あっ、苦手なタイプの女だわ。
見た目は茶髪のロングで、スタイルはいい。が、
「すまない、急いでるんだ」
ここは穏便に断って――。
「それでね、ここに行きたいんだけど」
「聞けよっ」
俺を無視して地図を広げる女。
クソっ。乳が少しデカいからって調子乗りやがって!
「花火を見る予定があるんだ。急いでるから他をあたってくれ」
「花火? 通りで人が多いと思ったわ」
よし、これで――。
「じゃあアタシも花火を見るから、よく見える所に連れて行きなさい」
「は?」
この女の頭の中にラフレシアでもいるのか?
「あんた、さっきは何処かに行きたいとか言ってたろ」
「今は花火の気分なの」
厄介な女に目を付けられたな・・・・・・。
「ほら、早く案内しなさい」
このまま皆の元に連れて行くと、何故か俺の死体が出来上がる気がする。
「ちっ、仕方ないか」
女の格好を見たところ、どうやらアローラ地方に観光してきた客みたいだし、無下にするのもな。
「はぁ・・・・・・」
「溜め息を吐く男はモテないわよ?」
本当に苦手な女だ。
***
「そんで、あんたは何処から来たんだ?」
渋々ながら女を連れて、皆とは別のスポットを俺は目指していた。
「カントーよ」
「へ?」
まさかの地元が出てきて、女を驚き見る。
「俺もカントー出身なんだけど、あんたを見た事ないな」
「アタシはあんたの事知ってるけどね。ユウキ」
まぁ、カントーの出なら知ってるだろうな。
自慢じゃないが、俺はポケモンリーグでの有名人だし。
「てことは、俺を知ってて話掛けたのか」
「そこは偶然よ。というか、あんたじゃなくて名前で呼びなさい」
いや、名前知らんし。
「アタシ、ブルーっていうの」
めっちゃ知ってた。凄く有名人だった。
「あぁ、そう」
「なによ、そっけないわね」
混乱してるからなっ。
最近忘れているが、俺は転生者だ。
転生する前の世界では、ポケスペも読んでいたし当然『ブルー』という名前の女の子を知っている。
しかし、マサラタウンに生まれ、この世界で旅をしていてそんな名前を聞く事は無かったから居ないと思っていた。
え、なに? てことはレッドやグリーンもいるの!?
「ちょっと、聞いてるの?」
「あぁ、もちろん」
適当に会話しながら脳内整理をしていると、目的地の近くまで来たようだ。
「ここからだと花火がよく見える。とっておきの場所だ」
花火大会の会場から少し離れているが、人も居ないし静かに楽しめる。
「ふぅん。で、花火は?」
「もう少しだ」
近くに設置されているベンチに座り、ブルーも隣に座ってくる。
「ところで、さっきから気になってたんだけどさ。その子見た事無いんだけど」
ブルーが見てるのは、俺の肩にとまっているベベノム。
「ベベノムって言うんだ。ペンキを飛ばしてくるから気をつけろよ」
「アタシの服を汚したら許さないからね」
面倒事を避けたいのでベベノムをボールに戻して、空を仰ぎ見る。
「やっぱり、強いトレーナーって珍しいポケモンを連れてるのね・・・・・・」
すると、ブルーが足を組んで俺を見た。
「ね、さっきのポケモン。頂戴よ」
「駄目に決まってんだろ」
あんな悪戯ポケモンだが、他人に譲る訳にいかない。
「それなら、ユウキごとゲット・・・・・・しちゃおっかな」
一指し指でツツッ、と俺の肩を妖艶に撫でるブルー。
決して「よろこんでっ」なんて考えてない。
「・・・・・・ぶふっ。冗談よ」
俺の耐える顔が面白かったのか、ブルーが吹き出す。本当に苦手なタイプだ。
「あっ」
そこで花火が打ち上がり、ブルーが声を漏らした。
「悪くないじゃない」
どうやらお気に召したようだ。
モクローやピカチュウなどの顔を模した花火を楽しんでいると、視線に気付いた。
「なんだよ」
「別に」
俺から視線を外したブルーは、また花火を見上げて口を開いた。
「ユウキはさ、兄弟って居る?」
「弟なら居るな」
「そっか。弟・・・・・・」
なんだ? ブルーの表情が一瞬だけ暗くなったような。
「うんうんっ。弟は大事にしなきゃねっ」
・・・・・・ポケスペを読んでいたと言ったけど、金銀までだ。
それ以降ブルーに何があったか分からない。
いや、この世界にいるブルーはポケスペと違う人生を歩んできたかもしれない。
この世界ってアニポケ基準だしね。
「あっ、終わったみたい」
考え込んでいると、いつの間にか花火は終わり。
夜空は静かに輝いていた。
「さて、アタシは帰るとするわ。ユウキ、ありがとね」
そう言ってブルーは手を振り、この場から去って行く。
さっきの会話でブルーに何か悩みがあるのは分かった。
けど、多分それはブルー達の問題。
きっとレッドやグリーン、イエロー達がこの世界の何処かに居るんだろう。
それならば、その問題は彼らのもの。
俺とは違う物語を――。
『ユウキ』
なんて、厨二な感じに浸っていたら、
「約束、破りましたね」
「待ってたのなー」
「絶許」
やっべ。完全に忘れてた。てかなんで居るの。
「カ、カキ・・・・・・」
「俺は知らんぞ」
「マーマネ・・・・・・」
「僕もしーらない」
「サト――」
「ピカチュウ、これ食べるか?」
『・・・・・・ユウキ』
「ひぃっ」
その日、俺は汚い花火となった。