転生先はポケモン 28話

転生先はポケモン 28話

 アセロラさえいればいい。

「ユウキ。サトシを迎えに行ってくれないか?」
 テレビを見ていたら、ククイ博士が申し訳なさそうに言ってきた。
「うん? フェリーで帰ってくるんじゃないの?」
 確か、明日の夕方には帰ってくる予定だったな。
「実は、その船が急に出られなくなってね。復旧するのを待っていると、明後日になるんだ」
 ほーん。明後日か。その日は皆と花火大会に行く約束があったな。
「分かった。じゃ、明日の朝に行ってくるよ」
「悪いね。多分マリエシティに行けば、サトシと会えると思うから」
 といっても、ラティアスに乗って行くと目立つしなぁ。あっ、そうだ。借りればいいか。
***

「お疲れ、ボーマンダ。休んでてくれ」
 ルザミーネさんに頼み、ライドポケモンを借りてウラウラ島までやってきた。
 ボーマンダをボールに戻して、降り立った街を見渡す。
「マリエシティに来れば会えるって言ってたけど・・・・・・何処に居るんだ?」
 広い街だし、探し歩くのは疲れそうだなぁ。詳しい居場所を聞けばよかった。
「つうかサトシは大試練をやってるんだよな? この街の人に聞けば何か分かるかも」
 とりあえず、目の前の図書館に入って聞いてみよう。

「すみません。ちょっといいですか」
「はい、何か本をお探しでしょうか?」
 入り口近くで作業をしていた司書っぽい人を呼び止める。
「この島の大試練について聞きたいんですけど。島キングとか」
 すると、近くの机で読書をしていた子供が寄ってきて、俺の袖を引っ張った。
「それなら、アセロラ姉ちゃんに聞くといいよ」
「アセロラ?」
 子供の視線に合わせてしゃがむと、コクリと頷いた子は指を図書館の外へと向けた。
「アセロラ姉ちゃんと島キングは仲良しだから。今、少し離れた交番に居るはずだよ」
 そう言うと、その子は元いた机に戻って読書を再開した。
「そっか。ありがとな」
 情報も得たし、早速行ってみるか。
***

 司書っぽい人に地図を貰い、交番を目指して歩いていると、近くの茂みから黒い物体が横切った。
「ちょっとーッ。早いよラプー! 降ろしてってばッ」
 よく見るとゲンガーか。って、乗ってる女の子が危ないッ。
「マリルリ、アクアジェット!」
 マリルリを呼び出して、飛び回ってるゲンガーに攻撃するが、避けられてしまった。
「待って待ってッ、やめて!」
「え?」
 もう一度攻撃を指示しようとしたら、ゲンガーに襲われていた女の子が慌てて叫んで止めてきた。

「ふぅ。お兄さん、急になんなの?」
 ゲンガーから降りた女の子は、腕を組んで頬をプックリと膨らませた。
「えっと、君が襲われて困ってると思って・・・・・・」
 怒っている様子を見ると、どうやら違ったみたいだ。
「まぁ。確かに困ってたけど、別に襲われてた訳じゃないよ」
 女の子はゲンガーを撫でると、俺に紹介した。
「このゲンガーは欲しがりラプーっていって、アセロラのお友達なの」
「そうか。ゲンガー、さっきはごめんな。君も、友達を攻撃してごめん」
 完全な早とちりで申し訳ないな。
 うん? アセロラ?
 深く頭を下げると、女の子は慌てて手を振った。
「あ、いや。別にいいよ。お兄さん、アセロラを助けようとしてただけみたいだし」
「本当にごめんな」
「もういいってばー」
 頭を上げて女の子を見ると、困った顔をしているしこの辺にしておこう。
「ところでお兄さん。この辺りに何か用事? この先は危ない街しかないよ」
 街? 結構暗い雰囲気で人も居ない道路だし、何も無いと思ってたんだが。
「えっと、島キングに話があって交番を探してるんだ」
 すると女の子は納得したかのように頷いた。
「なんだ。クチナシおじさんに用事かー。試練を受けに来たの?」
「いや。ちょっと人探しをな」
 女の子は「ふーん」と言ってゲンガーと共に歩き出した。
「じゃあ案内してあげるよ。アセロラ、場所知ってるから」
「助かるよ」
 マリルリを戻して、先を歩く女の子の後を追う。
***

「あっ、ここだね。おじさん居るみたい」
 暫く歩いて、無事に交番に着いたが、
「ニャースがいっぱいおる・・・・・・」
 扉を開けたら、アローラニャースで埋め尽くされているんだが。人なんて居ないぞ。
「あん? 客か?」
 本当に居たのか。
 奥から怠そうに人が現れたが、人相悪っ。
「島キングのクチナシさんに用事があるんですが、貴方ですか?」
「・・・・・・ちげーよ。島キングは今、修行に出てるから居ないぞ」
 だよな。この見るからに悪そうな人が島キングな訳、
「もうっ、また嘘ついてー。駄目だよ、おじさん!」
 俺の背中に隠れるよう立っていた女の子が、ひょっこりと顔を出したが・・・・・・島キングってマジ?
「ちっ。バラすなよ、アセロラ」
「さっきから気になってたんだけど。もしかして、図書館の子が言ってたアセロラ姉ちゃんって、君かな?」
 驚いてアセロラを見ると、きょとんとしていた。
「そうだけど。お兄さん、アセロラの事を知ってるの?」
「図書館で、島キングの事を聞くなら君にってね」
「そうなんだー」
 まさか偶然会った子が探し人とは。おかげで交番にもついたし後は、
「ちょっと島キングに聞きたい事が」
「はぁー、試練ならやらんぞ。やったばっかで怠いからな」
 本当に怠そうに首をまわしてるなー。
「って、やった? もしかして、サトシとですか?」
「おう。なんだ、あんちゃん知り合いか?」
 知り合いもなにも、
「サトシは俺の弟です」
「えぇッ。サトシの!?」
「なんでアセロラが驚いてんの」
***

「ほーん。それでアセロラが立会人をやったと」
「うん。試練自体は昨日無事に終わったよ」
 そのまま交番で話を聞いていると、サトシは大試練を突破した事が分かったが、
「それでサトシは何処に? 帰りの船が無くなったって聞いて、迎えに来たんですが」
「あんちゃんの弟なら、さっき帰ったぞ?」
「なんだって?」
 猫じゃらしでニャースと戯れているクチナシさんは、欠伸をして変な事を言い出した。
「いやいやいや。ククイ博士に頼まれて、わざわざ来たんですよ? まだウラウラ島にいるんじゃ」
「つっても、俺とアセロラは見送ったしなぁ」
「うん。確かに船に乗って帰ったよ」
「なるほど」
 つまり、博士の勘違い。
 サトシとは入れ違いに、俺は来たのか。
「ちょっと電話を借りますね」
「好きにしな」
 えーっと。博士の家の電話番号はっと・・・・・・。

『はい。ククイです』
「ロイヤルマスクの正体をバラす」
『えっ、なに!? 誰!?』
***

 ククイ博士から謝罪を受けとり、お詫びにウラウラ島で宿を取ってくれた。少し脅迫じみていたが、気のせいだろう。
「せっかく来たし、観光でもするかな」
「なら、アセロラがガイドしてあげるよ。お兄さん」
 応接間のソファで寛いでいたアセロラが顔を出して、空を飛ぶミミッキュを抱きしめた。
「いいのか?」
「うんっ。丁度ひまだし、遊びたいなーって」
 そういえば、近くに街があるって言ってたよな。
「アセロラ、この先にある街ってどういうのだ?」
「行くのはやめとけ、あんちゃん」
 アセロラが答える前に、クチナシさんが忠告してきた。
 怠そうな感じだったのが、妙に真剣だな。
「・・・・・・それより、このアセロラちゃんがウラウラ島の楽しい所を案内してあげるっ」
「あぁ。頼むな」
 気になるが、危ないと言ってたしやめとくか。
***

「アセロラちゃーん。楽しい所って、何処なのかなぁ?」
 俺は今、アセロラちゃんガイドでウラウラ島をまわっているのだが・・・・・・。
「ここはね、よくミミたんと遊ぶ場所なんだよっ」
「キュキュッ」
 アセロラの空を飛ぶミミッキュが同意するよう鳴くが、そうじゃない。
「いやね? 楽しい所って言ってたじゃん? それがここなの?」
 外見はボロボロ。中に入ると、スーパーらしいのが分かるけどボロボロ。
 商品も彼方此方に飛び散り、なんかこう、出そう。アレが。
「ところで、ミミッキュって飛んだりするんだな。色も違うし、アセロラのミミッキュが特別なのか?」
 ロケット団のミミッキュは見た事あるが、飛んだりしないしなぁ。
「ミミたんは幽霊だからね」
「今すぐここから出よう」
 自分でも驚く程に素早い動きで振り向き、出口へと向かう。
 しかし、ミミたんに回り込まれたっ。
「ひえっ」
 幽霊とかマジ無理。一番怖いのは人間とか言われてるけど、人間は物理効くじゃん。こいつら物理効かないんだぜ? 恐怖しかないわ。
「ふふっ。変な声出さなくても大丈夫だよ。ミミたんは悪い子じゃないから」
「本当に?」
「本当に」
「俺、死なない?」
「死なない」
 ふぅ。そこまで言うなら信じよう。
 全部が悪霊って訳じゃないよね。噂では、六畳間に住んでる幽霊は可愛いらしいし、そういう目線で見たらミミたんが可愛く見えてきた。
「あれ、なんか買い物カゴが浮いてるな。ははっ、ミミたんめ。悪戯はやめなさい」
「ミミたんは何もしてないよ?」
「やっぱり出よう。すぐに」
***

 まったく。酷い目にあったぞ。
 カゴの他に色んな商品が飛んでくるとか、暫くは夜にトイレ行けないじゃないか。
「もうっ、マリルリやめてよー。あははっ、冷たーい」
 マリエシティの奥にある庭園に来た俺達は、水辺で遊んでいるが・・・・・・。
「アセロラ、あんまり濡れると風邪引くぞ」
「平気だよーっ」
 はしゃぐアセロラを見ていると、妹と遊んでいる感じになるな。
「前世含めて妹なんて居ないけどな。俺」
「うん? お兄さん、なにか言った?」
「なんでもない」
 ほら、俺の事を「お兄さん」なんて呼ぶから。
 サトシは弟だけど、アイツ呼び捨てにしてくるから。
 一度も兄と呼ばれていないんだ。それで年下の子にお兄さんなんて呼ばれると、何かこう、胸の奥から知らない感情が・・・・・・。
「きゃっ」
 ボーッとしていると、アセロラが転んだのか、倒れている姿が見えた。
「大丈夫か? おい、膝怪我してるぞ」
「平気だよっ。ほらこの通り、ピョーンっと――痛たた」
 心配させたくないのか、アセロラはジャンプするけど、
「ほら、手当するから。大人しくしてな」
 リュックからティッシュや傷薬などを取り出して、アセロラの膝を丁寧に治療する。
「ありがと。あんっ、痛い。もう少し優しくしてくれると・・・・・・」
「我慢してくれ」
 サトシは昔からやんちゃだったからな。こうした応急手当は慣れたもんだ。

「これでよし。女の子なんだから、はしゃいであまり傷をつくるなよ」
「うん。・・・・・・お兄さんって、本当にお兄さんみたいだね」
「どういうことだ?」
 突然寂しそうな顔をしたアセロラが、ポツリと呟いた。
「家族みたいな存在って、クチナシおじさんしか居ないから。その、お兄さんみたいな・・・・・・」
 ・・・・・・詳しい事はよく分からないが、察する事は出来る。聞くのはやめておこう。
「そういえば、お兄さんの名前なんていうの?」
 俯かせた顔を上げたアセロラは、首を傾げて聞いてきたけど、今更だなぁ。
「ユウキだよ」
「ふーん。そっかぁ」
 素っ気ない返事と同時に、アセロラは背を向けた。
 えー。名乗ったのにその反応は傷つくな・・・・・・。

 しかし、くるりと回って俺の顔を見たアセロラは、
「じゃあ、ユウキお兄ちゃんだっ」

 ――この日、俺の中の何かが崩れ落ちた。
***

「なんだ、また来たのか」
 報告の為、アセロラと共に交番へと戻った俺は、クチナシさんに大事な事を伝える。
「お義父さん。今日から俺はアセロラの兄となりました」
「おう。逮捕な」
 おかしい。なにか勘違いされている。
「手錠もって近づくのはやめてください」
「どこからどう見ても事案じゃねぇか」
 失礼な。俺を犯罪者扱いするなんて。妹と手を繋いでるだけなのにっ。
「クチナシおじさん! ユウキお兄ちゃんは悪い人じゃないよっ」
「だが目付きが、こう・・・・・・危ない感じがするんだが」
「気のせいですよ、お義父さん。俺の目をよく見てください」
「濁ってるな。つうかその呼び方やめろ」
 馬鹿なッ。この澄み切った目に向かって何をッ。
「はぁ。アセロラが認めたなら、いいけどよ」
 溜め息を吐いたクチナシさんは、アセロラに聞こえないよう俺の耳元で囁いた。
「いいか? アセロラに何かしたら、逮捕だからな」
 さすがアセロラの親代わりのような存在だ。凄くドスが効いている。
 俺は、それに力強く頷くと、クチナシさんは引き下がった。
「ね、ユウキお兄ちゃん。アセロラ、もう少し遊びたいなー」
「任せろ。たとえ火の中水の中、アセロラの為なら――」
「じゃあミミたんと一緒に、さっきのスーパー跡地に」
「アセロラの為なら、為、なら・・・・・・」
 くっ、妹のお願いが聞けずになにが兄かッ。
「っしゃ、行くぞオラァッ」
「わーいっ。お兄ちゃん大好きーッ」
 足が震えるのを抑え、いざ往かんッ。
***

 次の日。
 恐怖体験を終えて宿に帰った俺は、夜を震えて過ごした。
 気付いたら朝だったのは、ご愛嬌という事で。
「ねぇ。もう帰っちゃうの?」
 帰りはククイ博士に取らせた船で帰る。
「寂しいが、俺の今の家はメレメレ島だからね。仕方ないんだ。分かっておくれ」
 ギュッと俺の袖を掴むアセロラたん。はぁ。辛い。
 もういっそウラウラ島に住もうかな。
「ポケモンスクールに通ってるんだっけ」
「・・・・・・あぁ。友達も居て、毎日が楽しいんだ」
 でも、そこにはアセロラたんが居ない。つらたん。
「アセロラ、遊びに行くからッ。絶対!」
「うん、待ってるよ。今度は俺がメレメレ島を案内する」
「約束だからね!」
 名残惜しいけど船に乗らなきゃ。
 アセロラたんと指切りを交わして、船に向かう。
「たった一日だけど、妹ができて楽しかったよ。じゃあ、またな」
 あぁ・・・・・・、足が重いなぁ。帰りたくないなぁ。
「ユウキお兄ちゃん!」
 振り向くと、笑顔で手を振るアセロラたんが目に入る。
「ユウキお兄ちゃんは、ずっとアセロラのお兄ちゃんだからっ、忘れないでね!」
「またな、アセロラ」
 我が妹の見送りを背に、ユウキお兄ちゃんはクールに去るぜ。
「お客様、船内に鼻血を垂らさないでください」
***

「お帰り、ユウキ。今回はすまなかったね」
 家に帰ると、ククイ博士が出迎えてくれた。申し訳なさそうにしてるが、別にいいんだ。
「家族が増えるって、いいですね」
「いきなり何を言ってるんだい?」
 ククイ博士はバーネット博士と結婚したばかりだし、俺の言いたい事は分かるだろうに。
「あっ、ユウキ遅かったな! じゃーんっ、ルガルガンZ! ウラウラ島の大試練を突破したぜッ」
 シャワーを浴びたのか、サトシは半裸で出迎えてくれたが、
「・・・・・・やっぱり、弟より妹かなぁ」
「ルガルガルの奴、凄かったんだぜっ。バーンッてなってドーンって――」
 何か喋っているサトシの横を通って、一言。
「はぁ。アセロラたんに会いたい」
「ユウキ。ウラウラ島で何をしてきたんだい?」

 リビングのソファに座ると紫の物体が飛んできて、俺の腹を強打した。
『べべッ』 
「ただいま、ベベノム。吐きそうだからやめてくれ」
 
 いつもならここでキレている所だが、今日の俺は違う。
「まったく、駄目だろ。人に突進なんかしちゃ」
 アセロラたんと触れ合ってパワーアップした、この兄オーラ。
 悪戯ッ子なベベノムもこれで大人しく――。
『ベッベッ!』
 顔に飛んできた液体を拭い、ゆっくりとベベノムを掴む。
「覚悟しろよオラァッ!」

 ――アセロラたん。早くまた会いたいです。

***

「むむっ。なにか嫌な予感が」
「ライバル出現でしょうか」
「また増えた?」


 続くったら、続く?