おまたせ、きのみジュースしかなかったけどいいかな?
「えー、という事で、環境によってポケモンは姿形が変わる事も__うん?」
慌ただしい非日常が終わってから数日。
欠伸をかみ殺しながらいつも通りの授業を聞いていると、時間を知らせる鐘がカンカンと響く。
「なんだ騒がしいな」
鐘に引っ付いているネッコアラは、普段そんなに鳴らさないが・・・・・・。なにかあったのだろうか。
「ウルトラガーディアンズの諸君! 出動準備ダークライ!」
荒ぶるネッコアラを眺めていたら、教室にオーキド校長が入ってきた。
「ルザミーネさんから連絡があったんですね?」
真剣な顔をしたククイ博士が校長に問いかける。頷いた校長は、
「うむ。新たなウルトラビーストの目撃情報が入ったそうだ。そこでいよいよ、君たちウルトラガーディアンズの出番ということダーテング!」
モノマネをしている校長を置いて、ククイ博士は黒板を上に押し上げた。
「って、えぇっ」
黒板の下には何やらハイテクな機械があり、真ん中の大きなスイッチを博士が押すと__。
「えぇ・・・・・・どういう仕組みなんだよ」
教室の壁が回転し、俺達が入れるような大きさの空間が出来た。
「エーテル財団が教室に改造を施したんだ。直ぐに出動できるようにね」
ククイ博士はそう言うが、すげぇ金が掛かってそうな出来だ。
「それじゃ皆、位置についてくれ」
「俺いっちばーんっ」
サトシが最初に入り、俺も続く。全員が中に揃うと扉が閉まり、床が降下し始めた。
「おっととっ」
グングンと下がる中、足下から噛んだ後のガムのようなモノが首から下に纏わり付いた。
「なんだ!? うわっ、やめっ、やめろぉっ。流行らせコラ!」
俺の体に吸い付くようピッタリと着用されたソレは、白を基調にしたスーツだった。
「こんな、戦隊スーツみたいなモノッ」
恥ずかしっ。なんで着なきゃいけないんだ! 脱ぎたい。
だが周りの反応を見ると、カッコイイとか言ってる。
「カキ、そのスーツ気に入ったのか?」
「ん、おう。似合うだろ?」
「・・・・・・あぁ」
なんでもかんでもカッコイイというサトシは置いといて、年が比較的近いカキに聞くが、味方はいなかった。
ガクリと項垂れていると、降下が止まった。
「着いたのか?」
シュンッ、と扉が開くと、近未来のような秘密基地と言い表す感じの部屋に出た。
「あれ、ピクシーじゃないか」
「ピックシッ」
その部屋にはピクシーがいて、俺達の方へ歩いてくる。
『アローラ、ウルトラガーディアンズの皆!』
その時、部屋の中央からホログラムが浮かび、ルザミーネさんが映った。
「あ、お母様。何故ここにピクシーが?」
『ピクシーは、今日からウルトラガーディアンズの一員として補佐につく事になったの』
と、そこでホログラム映像が切り替わる。
『これを見てちょうだい』
映ったのは、「アローラ探偵ラキ」というドラマ番組の収録風景。
『犯人はあなたロトッ』
再放送も欠かさず見ているロトムのテンションが上がるが、見るべき所はそこじゃない。
「おい、後ろの方を見てみろ」
空にウルトラホールが現れ、ウツロイドとは別のウルトラビーストが出てくる。
『私達は、このウルトラビーストをマッシブーンと名付ける事にしました』
更に場面は代わり、通報されたのかジュンサーさん達が出したカイリキーに囲まれていた。
「おいおい、あんな強そうなカイリキーを軽々と投げているぞ」
「はえ^~すっごいムキムキ、カッコイイ」
俺は、マッシブーンの力に驚いてるカキの横で呟いたスイレンの趣向に驚いた。
『それじゃあ、このウルトラビーストの情報はロトムに転送するわ』
『了解ロトーッ』
ホログラムを映し出している機械とロトムが繋がると、ロトム図鑑が更新されたみたいだ。
『ピピッ。マッシブーン、ぼうちょうポケモン__』
「えっ、ポケモン!?」
ウルトラビーストではなく、ポケモンとして図鑑に登録された事に驚いたマオ。
『研究の結果、ウルトラビーストをポケモンとして定義づける事にしたの』
ルザミーネさんの隣に控えてるバーネット博士はそう言うが、あの得体の知れない・・・・・・いや、デオキシスとかいるし今差だよな。
『マッシブーン。むし・かくとうタイプ。一発のパンチで、ダンプカーを粉砕する程のパワーの持ち主』
一発って、規格外だなぁ。でも俺のバンギラスなら出来そうだ。
『マッシブーンは今、知らない世界に放り出され、戸惑ってる故の行動で暴れているだけだと思うの。だから一度捕獲して、元の世界に戻すのを協力してちょうだい』
しかし、この世界のモンスターボールで捕まえられるのか?
そう思っていると、ピクシーが見た事無いボールがたんまり入った箱を持ってきた。
『それはウルトラビースト専用として開発した、ウルトラボールです』
『といっても、モンスターボールを参考にしたからバトルで疲れさせてからの方が有効よ』
ビッケさんとルザミーネさんがそう言うと、一通りの説明は終わったみたいだ。
『それでは、ウルトラガーディアンズ。出動よ!』
『はいッ』
回復アイテムの箱も受けとり、気合いを入れて返事をしたのだが・・・・・・。
『あっ。そこは、「ウルト、ラジャー」でお願い』
「お、お母様ったら」
えぇ。このスーツといい、ルザミーネさんって特撮が好きなのかな。そんなの俺には出来ないよ。
「かっけーッ」
サトシは安定だけどな。
『それじゃ、もう一度。皆、出動よ!』
『ウルトラ、ジャーッ』
「・・・・・・ラジャー」
あぁ。顔が熱い。
***
位置につくと、一人につきライドポケモンが用意されていた。
サトシはガブリアス、マオはフライゴンといった具合だ。
「それじゃ、よろしくな」
俺が乗らせて貰うのは、ボーマンダ。紅い翼がカッコイイぜ。
ずっしりとした巨体に乗り込み、飛び上がる。
「ユウキ、行きまーす!」
皆に聞かれないよう、最後に飛んで呟く。
一度言ってみたかったんだ。ルザミーネさんの事を悪く言えんな。
『あら、ユウキ君もそういうの好きなのね』
「・・・・・・通信繋がってるんですか?」
『えぇ。スーツの機能で、腕の所から映像と音声が__』
__ブチッ。
ふぅ、これで安心だ。
「さぁ、ボーマンダ。思いっきり飛んでくれ」
顔の火照りを冷ますくらいにな。
***
新たに入った情報によると、この辺でマッシブーンがポケモンを襲っているというが・・・・・・。
「あれじゃないか!?」
先頭を飛んでいたカキが真っ先に気付き、マッシブーンの元へと降りる。
「コラー、止めろーッ」
そこにはマッシブーンとカビゴンが居たのだが、カビゴンは襲われて自慢の巨体が縮んでいた。
「吸血かなにかで吸われたのか? とりあえず、きのみを食わせよう」
マッシブーンは、尖った口をしている。恐らくそこから吸ったのだろう。
というか、まんま蚊だな。
「まてーッ」
逃げたマッシブーンをサトシが追いかけるが、一人じゃ危険だ。
「俺もマッシブーンを追いかける。此処は頼んだ」
カビゴンの事はマオ達に任せて、カキと共に走りだす。
少し先に居たが、既にサトシがバトルしているようだ。
「ぐっ。ピカチュウ、電光石火だッ」
「マブシ、マブシッ」
おいおい、ピカチュウの電光石火と並行してるぞ。
「マッブシ!」
「ピーカーピーッ」
更にピカチュウを空高く、アッパーで打ち上げた。
なんてパワーとスピードだ。
「加勢するッ。行け、バンギラス!」
「マブシ?」
バンギラスに気付いたマッシブーンは、ジリジリと距離を詰めて、
『・・・・・・』
__ドゴォンッ。
同時に飛び出し、互いの腕を掴み合う。
「バンギラスとの力比べで負けないとは。あの筋肉は見かけ倒しじゃあねえのか」
マッシブーンとバンギラスはお互い動かず、いや、動けずにいた。二体からは、ゴゴゴというオーラまで見える気がする。
「この勝負、どう動くッ」
カキがそう言うと、マッシブーンは聞こえたのか、カキの方へと顔を向けた。
その時、
「うわぁッ。な、なんだ!?」
バンギラスとの組み合いを止め、カキの目の前に移動してきた。
「・・・・・・」
マッシブーンはカキの体を上から下まで舐めるように見ると、数歩下がり、
「マブシ!」
ポーズをとった。うん?
「いったい何だ?」
「さぁ?」
俺とカキは顔を合わせてハテナを浮かべるが、マッシブーンは変わらずポージングを決める。
「ンマッシッ。マシッ」
「やれって事じゃない?」
「俺がか!?」
だってカキを見てからやったんだもの。そうじゃない? スーツの色が赤で似てるし、そうだよ(便乗)。
「マ、マブシ!」
少し照れた様子のカキは、両腕を上げてガッツポーズを取った。ふむ、ダブルバイセップスか。
それを見たマッシブーンは横を向き、胸を強調するよう立つ。あれは、サイドチェストかッ。
「お、なんか楽しそうだな! マブシッ」
ピカチュウを回収したサトシも参加してくる。
「おいおいサトシ。バックダブルバイセップスならこうだぞ」
「え、こう?」
「あぁ、見とけよ見とけよー。こう、後ろを向いて・・・・・マブシッ」
『マブシッ』
やべ、なんか楽しくなってきた。
皆でボディビル大会。いいゾ~コレ。
「あっ」
後ろを向いた事により、気付いた事があった。
「・・・・・・いつからおったん?」
『バンギラスと戦ってた所から』
既にカビゴンを治療し終わったマオ達がそこにいた。
「これは、別に遊んでた訳じゃ。そうッ、全ては油断させるためなんだ!」
『へー』
くっ、生暖かい目が辛いッ。
「オラッ、てめえら。いつまで遊んでんだ! ゲットのチャンスだろ! ゴラァッ」
恥を捨て去るようにウルトラボールをマッシブーンに投げる。
「マッシ。__マッシ!?」
俺の真似をして、後ろを向いてポーズをしていたマッシブーンにボールを当てるのは簡単な事。
見事に入り、ぐらぐらとボールは揺れる。
『ゴクリッ』
一回、二回・・・・・・。三回と揺れ、
__キランッ。
『やったー!』
マッシブーン、ウルトラゲットだぜッ。
***
「この辺りみたいね。よし、ウルトラホールを開けるわよ」
マッシブーンが初めて現れた場所、メレメレの花園に移動し、バーネット博士達が帰らせる為の準備を始める。
「一度ウルトラホールが開いた所は開きやすくなってるの。うん、セット完了」
空にはウルトラホールが現れ、後はマッシブーンを出すだけだ。
「出て来い、マッシブーン」
「マブシッ。マ、マブシ!?」
辺りを見回したマッシブーンは、帰り道が分かったみたいだ。
「ほら、お前の世界に帰りな」
コクリと頷いたマッシブーンは、ゆっくりとウルトラホールに飛んでいく。
「マッシブーン!」
「マブシ?」
直前にサトシがマッシブーンを呼び止め、
『マブシ!』
今度は俺達全員でポーズを決める。
「・・・・・・マッブシ!」
今日一番キレのあるポージングのまま、マッシブーンはウルトラホールの向こうへと消えて行った。
こうして、ウルトラガーディアンズの最初の任務は見事成功で終わった。
めでたしめでた__。
「ところでユウキ、さっきのポーズの事なんだけど」
「あと、お母様から聞きました。意外と子供っぽいのがお好きなんですってね」
「可愛い」
ファッ!?
「行け、ボーマンダ! 高く舞い上がれぇッ」
ニヤニヤと迫る女子達を躱し、俺はボーマンダと共にメレメレの花園から逃げだした。
今日の事は忘れて下さい、オナシャス!