転生先はポケモン 21話

転生先はポケモン 21話

 ウルトラホールに突ニューラ

 日輪の祭壇。夜が明け、陽が照りつけるこの場所を、同じ髪色の兄妹が目指して歩いていた。
「この島の奥に、日輪の祭壇が・・・・・・」
 固唾の呑み込み、緊張した様子の少女に兄が目線を向けた。
「そうだ。そしてここでソルガレオに会えれば__」
「わたくし、覚悟は出来ています」
 兄がポケモンボールを取り出して投げる。
「出てこいシルヴァディ」
 呼び出されたポケモンに二人は乗り、奥へと駆けていく。
***
 少女は普段、髪の毛をストレートにして帽子を被っている。
「絶対に助けます」
 今の彼女は帽子を外し、長い髪の毛を一つに纏めていた。
 決意を強くし、夜空に浮かぶ月を眺めていると、ノックの音が響いた。
「リーリエ、入るぞ」
「も、もう入ってるじゃないですか!」
 リーリエと呼ばれた少女は驚き振り向くと、既に部屋に入ってきた男に文句を垂れる。
「何の様ですか? グラジオお兄様。これから寝るところでしたのに」
 兄のグラジオは、妹の姿を足から頭まで観察すると首を傾げた。
「その格好でか?」
 いつも着ている白いワンピースでは無く、同じ色ながらも活発さが目立つパーカーにミニスカート。明らかに寝る格好では無いリーリエは声を詰まらせる。
「これはパジャマですっ」
 無理のある言い訳を、グラジオは聞き流すように話を続けた。
「ウルトラホールを探しに行くんだろう?」
 口をもごつかせていたリーリエが、今度は罰の悪い表情を見せた。
「心当たりがある。だが、危険な場所だから一人で行く。それを伝えに来ただけだ」
 もう言う事は無いと、背を向ける。
「待って下さいっ。・・・・・・私も行きます」
 認めるまで部屋から出さないと、グラジオの前で手を広げるリーリエ。
「お母様の事を大切に想っているのは、お兄様だけじゃないんです」
 しかしグラジオは、リーリエの言う事が分かっていたのかアッサリと、
「分かった」
「へ?」
 予想と違う態度に、口を開けて呆けるリーリエ。
「何をしている。早く行くぞ」
 そんな妹を置いて、部屋を出るグラジオだった。
「ま、待ってくださいーっ」
 慌てたせいで、用意した荷物を持っていく事が出来なかったリーリエ。せめてコレだけでもと、ピッピ人形を一つ抱えて兄の背中を追いかける。
***
 日輪の祭壇の入り口に着いたグラジオ達。
 扉が閉まっている事に気付いたリーリエは、近くにある石像へと近づいた。
「ニャビーにモクロー、アシマリの石像」
 石像の後ろには、タイプを現す模様が描いてある。
「なるほど! 対応するタイプの所へ、ポケモンの石像を動かせばいいのですねっ」
 答えは分かったと、石像を押す。だが重いのか石像はまったく動かずで、力んでいるリーリエの顔を真っ赤に染め上げる。
「何をしている」
 妹の行動に肩眉を釣り上げたグラジオが問うと、膝に手を置いて呼吸を整えたリーリエ。
「何って、このパズルを解かないと扉が開かないのでは?」
 行動の意味を理解したのか、グラジオは溜め息を吐いて扉の方へ歩き進む。
「へ、空いてる!?」
 リーリエは、平然と扉を開けるグラジオに声をあげた。
「動かす方が問題なんだ。シルヴァディ、その石像を押せ」
 ゆっくりと押していくと、突然飛び退くシルヴァディ。
「ひぃーっ」
 なんと、石像があった所から大量の杭が飛び出てくる。
 鋭く尖った罠を見て、リーリエの顔から血の気が引いた。
「分かったら怪しいモノに迂闊に触るなよ」
「はいぃ」
 腰を抜かしたリーリエを、シルヴァディが拾い上げて先に進む。


 進んだ先は、断崖絶壁。木の杭が立てられているが、肝心の橋が無い。
「分かりましたっ。此処には見えない透明の橋があるのですね! 本で見た事ありますよっ」
 次は自信があると、地面の砂を少量掴むリーリエ。
「サラサラーと・・・・・・あれ?」
 しかし、こぼれ落ちる砂は途中で止まる事なく崖の下へと流れていった。
「・・・・・・なにをしている」
「・・・・・・見えない橋があるのでは?」
 またもや溜め息を吐くグラジオ。
「乗れ」
 シルヴァディの背に乗った二人は、崖を飛び越えて向こう側へと着地する。
「以前この場所をエーテル財団の資料で調べた。謎なんて無い。橋はただ落ちただけだ」
 すると、リーリエは顔を俯かせた。
「お兄様は何でも知っているのですね。私は、足手まといです」
 グラジオは妹の顔を見る事なく、シルヴァディに進めと命じる。
「だったら、帰るのか? 行動を起こさないと、母さんだって戻らないんだ」
「そう、ですよね」
 兄の言葉に励まされたのか、リーリエは頬を叩いて表情を変えた。
 もう揺らがない決意を持った兄妹は、祭壇へと近づいて行った。

 暫く洞窟を歩いていたが、先から光が差し込んでくる。
「あの先が、日輪の祭壇!」
 目的の場所が近づき、シルヴァディから降りて光の方へと走るが、物陰から飛び込んでくる影があった。
「待て、リーリエっ」
 影に気付いたグラジオが呼び止める。足を止めたリーリエの目の前には、影の正体、複数のポケモンが道を塞いだ。
「ジャラコにジャランゴ。何故こんなに__」
 現れたポケモン達は、誰かを呼ぶかのように鳴き声をあげる。
「なんだっ」
 地面が揺れ、一部の壁が崩れ落ちる。その中から出てきたのは巨大なポケモン。
「ジャラランガ・・・・・・。本で読んだサイズより、かなり大きいです」
「恐らく、ここのヌシなんだろう」
 ジャラランガは、鋼のように堅い鱗を震わして金属音を響き渡らせる。
「やる気か、いいだろう。見せてやる聖獣の力をっ」
 シルヴァディを前に出すと、リーリエは少し離れながらもシロンをシルヴァディの隣に行かせる。
「わたくしもやります、こなゆきっ」
「ブレイククローッ」
 二体の技が命中するが、ジャラランガは倒れない。
「思ったよりも堅いな」
 舌打ちをして次の戦法を考えるグラジオ。そこでリーリエは閃いたように短く息を漏らした。
「フェアリーなら。お兄様、シルヴァディを!」
 リーリエの意図が伝わり、懐に手を入れて道具を出した。
「シルヴァディ、竜を滅する妖精の__」
「ジャラッ」
 フェアリーメモリをシルヴァディへと投げるが、グラジオの背後に忍び寄っていたジャラコに弾き落とされた。
「なっ、メモリが・・・・・・」
 弾かれたメモリは、ジャラランガの足下にあり、迂闊に取りに行けない。
「どう、すれば」
 グラジオが歯がみをなしていると、リーリエの元にジャラコ達が押し寄せる。
「しまったっ、リーリエッ」
「ひっ、シロンッ」
 離れている所からシロンとシルヴァディが駆けるが、間に合わない。
「リーリエーッ」
 届かないと分かっていても、手を伸ばすグラジオ。
 もう駄目と感じたリーリエは目を閉じた。
 ジャラコ達がリーリエを押し潰したのか、砂煙が舞い上がる。
「リー、リエ・・・・・・。連れて来たのは、間違いだったのか」
 目の前の惨状に、グラジオは膝を崩して後悔する。
 その時__。

「あっぶねー。間一髪だな」
 煙が晴れた場所には、兄妹以外の姿があった。
***

「リーリエ。大丈夫か?」
「ユウ、キ?」
 ポケモンに触れるようになったとはいえ、怖かったんだろう。リーリエの手は震えていた。
「ん。怪我は無いみたいだな」
 俺とリーリエの周りには、襲っていたジャラコ達が目を回して倒れていた。
 まったく。またリーリエが触れなくなったら、どうしてくれるんだ。
「うぉっ。どした、リーリエ」
 既に瀕死になっているジャラコ達を睨んでいると、胸にリーリエが飛び込んでくる。
「ありがとうございます。わたくし覚悟して来たのに、怖くって・・・・・・」
 泣きそうな声で、掴んでいる俺のシャツを握り締めてくる。
「もう大丈夫だ。リーリエの事は俺が守る。もう怖い事は起きないから、前だけ見てな」
 コクリと頷いたリーリエの頭を一撫でして、ジャラコ達を倒した仲間に飛び乗る。
「あのデカブツの所に走れ、ライコウッ」
「ラァイッ」
 俺を乗せたライコウはジャラランガの元に向かうが、周りのジャランゴが邪魔をする。
「シャドーボールを地面に打て!」
 効果はいまひとつの技。だけど倒すのが目的じゃない。
「ジャ、ジャラ!?」
 舞い上がった砂埃に隠れて突き進むが、
「ジャランガーッ」
 同じく姿を隠して近づいて来たジャラランガが腕を振りかぶる。
「まもるで耐えてくれッ」
 ライコウから飛び降りて、ジャラランガの股下を滑り抜ける。
「受け取れッ、グラジオ!」
 落ちていたメモリを拾って投げ、グラジオに後を託した。
「あぁっ。妖精の剣を刺し穿て、シルヴァディ!」
「シヴァーッ」
 フェアリータイプとなったシルヴァディは、ジャラランガに標準を定める。
「マルチアタックッ」
 天敵の攻撃を受けたジャラランガは倒れ、取り巻き達も退散していく。
「ふぅ。お疲れ、ライコウ」
 撫でると気持ち良さそうに目を細めるライコウ。
「そのポケモンは・・・・・・」
 リーリエも撫でようとすると、
「おいっ、外に出てからにしろ!」
 先ほどの戦闘で天井などの石が降ってくる。
「やべっ、リーリエ乗れ!」
「はいっ」
 俺とリーリエを乗せたライコウは、ジグザグに走って障害物を避けていく。

「危なかったー。生き埋めになるとこだったな」
 振り返ると、本格的に崩れていく洞窟。
『おーいっ』
 その中から、多数の人影が此方に向かってくる。
「サトシ? 皆も、どうして」
 スクールの皆が集まると、グラジオがシルヴァディから降りてサトシの前に立つ。
「前にも言っただろう、これは家族の問題だと。ユウキも、さっきは助かったがこれ以上は__」
「お兄様」
 リーリエが言葉を遮ると、ライコウから降りる。
「これは、論理的結論ではありませんが・・・・・・私、皆さんと行きたいです」
「遊びじゃないんだぞ」
 グラジオの睨みに怯まず、落ち着いて説得する。
「皆さんと一緒。そのほうが、お母様を助けられるような気がするんです。いえ、きっと助けられます!」
 暫く睨み合いが続き、やがてグラジオが目を逸らした。
「・・・・・・分かった。よろしく頼む」
 許可が出たところで、皆は拳を空に突き上げる。
『よし、行くぞーッ』
***
「ここが日輪の祭壇か・・・・・・」
 グラジオが辺りを見ながら呟くと、
『カプーッ』
 空から四体のポケモンが降りてくる。
「カプ・コケコ、カプ・テテフ!」
「カプ・レヒレにカプ・ブルルも居ますっ」
 俺達の前に、アローラの守り神が集結した。
「ウルトラビーストに攫われた人がいる。助けに行きたくて此処に来たんだが」
 馴染みのあるカプ・コケコの元に歩くと、リーリエとグラジオも駆け寄る。
「お母様がいるウルトラホールを探しているのですっ」
「そのためにはソルガレオの力が必要なんだろ? 何処にいるんだっ」
 カプ・コケコに詰め寄っていると、サトシのリュックが光りだし、ほしぐもが出てくる。
「カップゥ」
 カプ・コケコは、ほしぐもを浮かせると他のカプ達の元へ連れて行く。
「テッテテ、テテー」
「レヒーレー」
「ブルァッ」
 カプ達がほしぐもの周りを舞い踊ると、日輪の祭壇が様々な色のオーラに包まれる。
「コレって、サイコフィールド?」
 他にもミストフィールドなどが発動し、色とりどりに輝く。
「・・・・・・いい加減にしてくれっ。遊んでる暇は無いんだ!」
 弾むように舞うカプ達に、グラジオが怒鳴り散らした。
「早く母さんを助けに__」
「カップ」
 急かす態度にカプ・コケコが諫めているのか、グラジオの前で浮遊する。
「落ち着け、何か意味のある事なんだろ」
「そうですよ。島の守り神を信じましょう、お兄様」
 俺達もグラジオの肩に手を置き説得すると、納得していない様子を見せながらも身を退いた。

 それから十分程経つが、カプ達の行動は変わらない。
 ククイ博士は近くに居るバーネット博士を迎えに行くと言って離脱し、俺達は準備が整うまで情報を整理しながら雑談していた。
「ところでさ・・・・・・ライコウ、だよね?」
 マーマネが控えめに手を挙げて言うと、皆も一斉にライコウを見る。
「島の守り神のインパクトに上書きされたけど、合流した時に聞きたかったんだよねー」
「本物? メタモン、じゃないよね」
 マオとスイレンが恐る恐る、ライコウを撫でる。
「ジョウト地方の伝説のポケモンですよね」
 リーリエも撫でながら、俺の方へ目を向けた。
「あぁ。ジョウトで旅をしていた時、ロケット団の事件に巻き込まれてな」
 その時、サトシはまだ旅に出ていないから一人旅だったな。
「ロケット団って、あの三人組の?」
「いや、二人組」
 その時に出会ったバクフーン使いの少年は元気にしてるかな。
「いや、ライコウにも驚いたが・・・・・・。ユウキは何でそんなにボロボロなんだ」
 思い出に浸っていると、カキが若干引いた顔で見てきた。
「・・・・・・ウルトラホールを探していたんだ」
 日輪の祭壇に来たのはいいが、肝心のウルトラホールが見つからなかった。こすもに聞いても知らないって首を振るから他の場所を調べたんだけど・・・・・・。
「探してたって、此処は罠などが沢山ありましたけど大丈夫でしたか?」
「・・・・・・うん」
 いや、死にかけたわ。ゲーム脳を見事に殺しに来てたわ。

「カップーッ」
 死にかけた恐怖に身を震わせていると、ほしぐもから眩い光が発されて日輪の祭壇を包む。
「ソルガレオが現れるのか!?」
 必死に目を凝らして光の中心を見つめるグラジオ。
 更に強い光が一瞬点滅すると、僅かに見えるほしぐもの影が徐々に大きくなる。
 光が収まり、そこにほしぐもは居なかった。
「・・・・・・ソルガレオ?」
 ほしぐもが消えた代わりに、ソルガレオが威風堂々たる姿で俺達を見下ろしていた。
「ほしぐも、なのか・・・・・・?」
 語りかけるよう確認すると、ソルガレオはサトシの前へと進む。
「食べるか?」
 サトシがほしぐもの好物である金平糖を取り出して見せるが、ソルガレオは見つめるだけ。
「やっぱ食べないか」
 寂しそうな顔で金平糖を引っ込めると、
「あっ。・・・・・・やっぱり、ほしぐもなんだなっ」
 ソルガレオは差し出された金平糖を完食し、サトシの顔を大きな舌で一舐めした。
「ほしぐ、じゃなかった。ソルガレオ、俺達をウルトラホールの向こうへ連れて行ってくれないか?」
 サトシの頼みに、リーリエがソルガレオの鼻に額を付けて懇願する。
「お母様を助けるお手伝い、していただけませんか?」
 すると、ソルガレオはサトシの前にZクリスタルを差し出す。
「使えって事か? ・・・・・・入らない」
 受け取ったサトシがZリングにハメ込もうとするが、クリスタルが大きくて入らない。
「カップ!」
 どうしようも無い事態に、サトシのリングを取り上げたカプ・コケコは__。
『え!?』
 食べるように殻の中へ取り込み、他のカプ達に投げ渡す。
「あれ、形と色が変わってる」
 サトシに返されたZリングは黒くなり、クリスタルをハメ込む窪みが大きくなった。
「コレで行けるようになったのかっ、母さんの所へ!」
 今まで黙って見ていたグラジオが我慢出来ずにソルガレオに問い詰めると、返事をするようにソルガレオは座り込む。
「乗れって言ってるみたいだ」
 一番にサトシが背中に乗り込み、俺達もポケモンを戻してソルガレオに登る。

 準備が出来ると、カプ・コケコが目の前に降りて来て、Z技を発動するための動きを見せる。
「リーリエのママを助けにっ」
 サトシだけで無く、俺達も動きを合わせて両手の拳をぶつける。
『サンシャインスマッシャーッ』

 皆の全力がソルガレオに伝わり、ウルトラホールを出現させて駆けていく。
 しかし、ほしぐもが伝説のウルトラビーストだったなんて。
 もう一体、対をなす存在がいる。こすもは、もしかして・・・・・・。
 いや、今はルザミーネさんを助ける事だけを考えよう。


 想いを一つに、俺達は未知の世界へ進んでいった__。