意外な相手とエンカウントゲデマル
先ほどのロケット団襲撃から、一時間ほど経った。
「ポケモン、出てこないねー」
マオがそう愚痴ると、ロトムが辺りをサーチする。
「この辺でポケモンが出現する確率は……九十%ロト!」
ロトムの探索結果が出た、その時。
「キシキシッ」
目の前にポケモンが地面から出てきた。
「あっ、このポケモン前に追いかけてたやつだ!」
サトシが見た事ある様な反応をした。
そういや、初めて森に入った時にサトシが何か追いかけてたな。このポケモンだったのかな?
「ピピッ、アゴジムシ。ようちゅうポケモン。むしタイプロト!」
目の前のポケモンを解説するロトム。
「むしポケモンかー、よしっ。ピカチュウ、捕まえよう!」
サトシは、ピカチュウと共に前に出てバトルを開始する。
「ピカチュウ、十万ボルトだっ」
放たれた電撃が、アゴジムシに直撃し、動きを止める。
「今だっ。モンスターボール!」
サトシは、ダメージを負って動けないアゴジムシにボールを投げた。
「どうだ……」
一回、二回。揺れるモンスターボールに、皆が固唾を飲んで見守る。
「キシッ!」
三回目の揺れの直後、ボールからアゴジムシが飛び出してしまった。
「あぁ、惜しい。もうちょっとだったのに!」
出てきたアゴジムシは、地面に潜ってしまった。
「まだこの辺にいるロト!」
ロトムが、サトシに注意を呼び掛けた瞬間。
「きゃあっ!」
リーリエに飛び掛かる影が見えた。
確か、リーリエはポケモンに触る事が出来なかった筈。
「危ないっ」
俺は咄嗟にリーリエを此方に引き寄せた。
「おわわっ」
「きゃっ」
幸い、リーリエに怪我はなかったが、まだアゴジムシは地面に潜りながら俺達を狙っている。
「くっ、ピカチュウ。狙いを定めて、出てきた瞬間にアイアンテールだ!」
指示通り、ピカチュウは地面を見渡して構える。
「キシシッ」
だが、アゴジムシはピカチュウの真後ろに出てきて、いとをはいた。
咄嗟に距離を取るが、そのいとはピカチュウの足に絡みつき、避けようと跳んだ体を地面に叩きつける。
「ピ、ピカピ……」
その攻撃で目を回して、倒れるピカチュウ。
相手を倒したと確認したアゴジムシは、地面に潜って気配を消した。おそらく逃げたのだろう。
「ピカチュウ! 俺、ポケモンセンターに行ってくるっ」
サトシはピカチュウを抱えて、この場から離れる。
「俺達も行こうか」
「うんっ……と、その前に」
サトシを追いかけようと、発言したが、マオは何故かジト目で見てくる。
「あのぅ……」
あ、やべ。
「ご、ごめん。リーリエっ」
リーリエを抱き寄せたままなのを忘れていた。
「いえ、助けてもらったので。……先程はありがとうございました」
よほど恥ずかしかったのか、顔を林檎のように赤くして、お礼を言う彼女。
「ユウキって、えっちな男の子だったんだね。気をつけなきゃ」
マオはまだジトッとした目で見てくるし……。
「ふふっ」
スイレンは何故か、笑顔で見てくる。目は笑っていないが。
「お、おい。早くサトシ追いかけようぜ!」
カキの一言で、この何故か冷たい空間を脱する。
「そ、そうだな」
俺は慌ててそう言い、駆け足で出口に向かう。
ちなみにマーマネは、不穏な電波を感じて先に行ったのか、もう居なかった。
****
ピカチュウの回復が終わり、授業も終了した放課後、俺とサトシはアイナ食堂に来ていた。
「しかし、今日は惜しかったなサトシ」
「あぁ、でも諦めきれないぜ。今からまた森に行こうかなー」
テーブルに項垂れながら、言葉をこぼすサトシ。
「まぁまぁ、今からポケモンを見つけるのは大変だし、この特製パインジュースでも飲んで落ち着いて」
マオが、注文した飲み物を持ってきて、サトシを宥める。
「えぇー、でもなぁ。ロトム、何処かいい場所ない?」
サトシが諦めきれないのか、ロトムに頼る。
「ピピッ。ポケモンスクール裏の森、ただいまポケモン出現率九十%を超えているロト」
ロトムが結果を出すと、マオが俺の隣に座りながら喋る。
「あっ、いいかもね。私がアマカジに出会ったのも、その場所だし」
アマカジは、マオがいつも抱き歩いてるポケモンだ。
「アマカジ……フルーツポケモン。くさタイプ。おいしそうな香りが体から漏れだしている。この香りに誘われ本物のフルーツと間違う鳥ポケモンも多い」
ロトムがそう解説していると、空からアマカジ目掛けてナニかが飛んでくる。
「アンマッ!」
アマカジが突如飛んできた存在を、頭の蔕を使って弾き飛ばす。
「ん、ポケモンか?」
飛んでいった方を見ると、鳥ポケモンが転がっていた。
「ピピッ。モクロー……くさばねポケモン。くさ・ひこうタイプ。一切音をたてず飛行し敵に急接近。気づかぬ間に強烈な蹴りを浴びせる」
ロトムが解説している間にも、モクローはまたアマカジに向かっていく。
「相手に気づかれてるし、蹴りもそんなに鋭くないぞ……」
めっちゃアマカジに返り討ちにされてるよ。
「うーん。お腹が空いてるのかな?」
マオはそう言って、キッチンから果物の盛り合わせを持って来る。
するとモクローは、持ってきた果物に齧り付いた。
サトシは食事をしているモクローに近づくと、モンスターボールを持って話掛けた。
「なぁ、モクロー。お前の事ゲットしていい?」
モクローは聞こえていないのか、ガツガツと果物を食べていた。
しかし、突然何かを思い出した様な表情をしたモクローは、最後に残った大きめの果物を足で掴むと、そのまま飛んで行った。
「あ、待ってくれ!」
サトシは追いかけるつもりなのか、慌ててリュックを持ち、支度をする。
「ゲットするロト?」
「あぁ、行くぞ!」
サトシはロトムと一緒に飛び出して行った。
「あっ、サトシ! あれ、ユウキは行かないの?」
マオも行くつもりなのか、エプロンを脱ぎながら聞いてくる。
「おう、俺はちょっとやる事があるからな。サトシの事頼んだ」
マオは、わかったと言って、サトシを追いかけて行った。
****
サトシ達と別行動をとった俺は、森の中で修行をしていた。
「マリルリ、アクアジェット。バンギラスは、りゅうのまいをしながら避けてみろ」
マリルリがアクアジェットでバンギラスに突っ込む。
しかし、バンギラスはりゅうのまいを維持したまま避ける。
攻撃を避けられたマリルリは、そのまま旋回して再度突っ込んでいく。
三回ほど、りゅうのまいを積めたのを確認して二匹に制止を掛ける。
「よし、こんなものか。お前ら、お疲れ」
マリルリとバンギラスを労って、博士から分けて貰ったポケマメを食べさせる。
「美味いか? ……これ、ポフレみたいに人も食えるのかな?」
味が気になり、食べてみようかと悩んでいると、俺達の前にポケモンが現れる。
「っ!? カプ・コケコ__」
突然現れた守り神は、俺の周囲を飛び回る。
マリルリとバンギラスは、警戒していつでも技を出せるようにしていた。
「カプッ。カプー」
カプ・コケコは俺の真後ろに立って、腰のボールを一つ取った。
「っ!? 何をするんだ、返せっ」
しかし、カプ・コケコは盗る気はないのか、素直に俺に返す。
「なにがしたいんだ?」
そう聞くと、カプ・コケコは少し離れて、エレキフィールドを発動させた。
「まさか、こいつと戦いたいのか?」
そうだ。と言うように、カプ・コケコは構えた。
なるほど。思い出せば、サトシとピカチュウを気にかけていたし、強そうな電気タイプのポケモンと戦いたいのかな。
そういう事ならば、いいだろう。
俺は、手に持っているスピードボールを投げた。
「行け、ライコウ!」
「ライガーッ!」
迂闊に出せないポケモンだから、いい機会だ。
「まずは、めいそうだ」
場に出たライコウは、目を閉じて集中する。
「カプッ」
だが、そこにカプ・コケコが電気を纏い、突進してくる。
「っ、避けろっ。そこからシャドーボールだ!」
カプ・コケコの攻撃をギリギリで避けたライコウは、黒い球体を生成して放つ。
シャドーボールは直撃し、カプ・コケコの動きを止める。
「今の内に、もう一度めいそうだっ」
ライコウは目を閉じ、めいそうをする。
カプ・コケコの動きを逃さないように観察すると、力を溜めている動作を始めた。
「なんだ?」
どんな技が来るか警戒をしていると、カプ・コケコは翼を広げて、かなりの速さで突っ込んで来る。
「ブレイブバードか! ライコウ、避けろっ」
ライコウは回避行動をとるが、相手の方が早かったのか、攻撃が当たってしまう。
「ラーイ……」
結構なダメージを貰ってしまったようだ。
まだ戦闘続行できるが、早々に決着をつけねば。
カプ・コケコは、挑発するように飛び、体に電気を纏う。
「いいだろう。どっちの電撃が強いのか、勝負だ」
ライコウは俺の意思が伝わったのか、電気を体から溢れさせる。
「十万ボルト!」
「カプゥッ!」
両者の電気技がぶつかり合い、森全体が光に包まれる__。
****
「ただいまー」
俺が家に帰ると、サトシは既に帰宅していた。
「あ、ユウキ。紹介するぜ!」
そう言ってサトシは、リュックの中身を見せてくる。
「クルゥ……クルゥ」
中には、先程のモクローが眠っていた。
「もしかして、ゲット出来たのか?」
「あぁっ、実はな……」
サトシはモクローをゲットした時の出来事を語ってくれた。
「んで、モクローは仲間になってくれたんだ。あ、そういやユウキは何をしてたんだ?」
サトシは首を傾げて聞いてくる。
「ん、実はな。これをカプ・コケコにな」
俺は、腕のZリングを見せる。そこには紺碧色のようなクリスタルがはめ込まれていた。
「すげーっ。そのZクリスタルはどうしたんだ?」
……最後にぶつかり合い、光が収まった後、カプ・コケコは居なくなっていた。
周囲を見渡すと、カプ・コケコが居た場所には、このZクリスタルが落ちていた。
今日のバトルの報酬だろうか?
今日の事をサトシに話していると、キッチンで晩御飯を作っている博士が、話に加わってくる。
「それは、ドラゴンZだな。でも確か、そのクリスタルは別の島にあるはずなんだが……守り神が渡すくらいだ、何か意味があるのだろう」
ドラゴンZか……。アローラに来てから、ドラゴンタイプのポケモンは誰にも見られてない筈なんだが。
まぁ、博士の言う通り、何か意味があるのだろう。
いつかドラゴンのZ技を使う日を楽しみにしながら、食器を並べてご飯の準備をしていく……。