スクールに入りスカタンク
スイレンと意外な再開を果たした俺は、森に入った時の出来事を軽く説明した。
「なるほど、災難でしたね」
「まったくだ、サトシのせいで久々に肝が冷えた」
くどくどとスイレンに愚痴をこぼしていると、周りが此方を見ているのに気が付いた。
「えっと……スイレンのお友達ですか?」
金髪の女の子が周りを代表するかの様に聞いてくる。
「あー、自己紹介がおくれた。俺はユウキ、カントーから来たんだ。そっちは弟のサトシ、宜しく」
「んで、こっちが俺の相棒のピカチュウだ!」
「ピッカ!」
始めて会った子達に挨拶を交わしていく。
「ユウキは海で私が釣った男の子なんだよ」
「えっ! 逆ナンとか、スイレンてば大胆!」
「いや、困ってた所を助けてもらっただけなんだが」
ほんとに逆ナンだったらウェルカムなんだけどね。
「なーんだ。あ、私はマオだよ!」
「わたくしは、リーリエと言います」
「宜しく、マオとリーリエ。それで俺達はここの校長に用があるんだけど、どこに行けばいいか教えてもらえないかな」
元気な女の子のマオに、金髪のお嬢様っぽいリーリエと握手をしながら目的の人物の場所を聞く。
「あ、なるほどー。おっけおっけついて来てー」
なにか納得した風のマオに手を引っ張られ、スイレンとリーリエにまた後で、と手を振られる。
「おーっ! すっげぇ、ポケモンの化石だぁ!」
かなり大きいポケモンの化石を見たサトシが、突如興奮して走り出す。
「ここはポケモンスクールだからね、ポケモンの事を学んだり、一緒に遊んだりするんだよ」
マオがこのスクールの事を説明してくれてるが、サトシは輝いた目で走り回っていて聞いていない。
いや、少しは落ち着いて聞いてやれよ。
「あ、着いた。ここが校長室だよ」
マオの説明を聞きながらサトシを諫めて歩いていたら、いつの間にか着いた様だ。
「校長先生、新入生を連れてきました!」
「え? いや、ちょ」
なんか勝手に新入生になってるんですが。
俺とサトシが驚いていると、校長室のドアが開いた。
「あら、ユウキ達ちゃんと来れたのね」
最初に母さんが部屋から出てきて、その後ろから見た事のある顔が現れた。
「アローラ! ユウキ、サトシ。ポケモンスクールへようこソルロック」
うわ、オーキド博士と似てる。てか、似てるってレベルじゃねぇな。
「私は、ナリヤ・オーキドだ。宜しくナックラ―」
随分と濃いキャラしてるな。博士の川柳といい勝負じゃない?
「校長先生はいっつもポケモンギャグばかり言ってるの」
「人とポケモン、一緒に楽しく暮らすのがいちバンギラス!」
あまりの強烈なギャグに凍り付く俺達。
いや、ほんとキャラ濃いな。
「なーんだ、新入生じゃなかったのかー。勘違いしてごめんごめん」
校長室に入った俺達は、マオに此処に来た目的を話した。
「おーい、ユキナリ。卵は無事に届いたぞ」
「おー、ナリヤ。そうか、助かりましたよハナコさん」
「いいえー」
さて、目的も果たしたしどうするかな。
「ねえ、新入生じゃなかったのは残念だけど、スクールを見学してく?」
いい機会だし、そうしようかな。サトシもなんかウズウズしてるし。
「そうだな、ポケモンスクールの中は初めてだし、見てみたいな」
「よっしゃぁ! 珍しいポケモンとかいるかなぁー」
サトシと一緒に居ないと、マオに迷惑かかりそうだしな。アローラに来てからのサトシは本当に元気過ぎるし。
カロスの時のこいつはキリッとしてて成長したなー、とか思ってたけど今は心なし顔が幼くなったというか、アホになったというか。
まぁ気のせいか。
「校長先生、ユウキ達にキャンパスを案内してもいいよね?」
「もちろんポリゴンヤブクロン!」
……アローラは暖かい筈なのに、この部屋は寒いなぁ。
「はい、ここが私達の教室だよ」
ぐるっと観回ったけど、生徒は結構いるのに教室毎の机は少ないんだな。
「うぉーっ! 風が気持ちよくて、いい眺めだぜ!」
「このスクールの施設はさっきケンタロスが居た所とか、他にもあそこに見える水のフィールドとか、広くていっぱいあるんだよ」
ジョウトやシンオウにもポケモンスクールはあったけど、こんなに広くないだろうなぁ。
「やぁ、三人ともアローラ」
海を見ていたら、後ろから半裸のおっさんに話掛けられた。
「あ、ククイ博士」
「博士?」
ポケモン研究の博士って、どこか変人ぽくないと務まらないのかな。
「スクールは楽しい所だ、今日は楽しんでくれよ。ユウキ、サトシ」
「はい」
「はいっ!」
話したところ、ククイ博士はただ半裸なだけで、常識人のようだ。
川柳かましたり、卵にハァハァしたり、婚活に忙しい三十路だったり、他にも変人博士が多いからつい身構えてしまった。
「ん? なんだあれ」
なにやら、スクール入口が騒がしい。
「なんか揉め事っぽいから、ちょっと行ってくる」
「あ、待って私も」
教室を出る俺にマオがついて来て、サトシと博士も追いかけてくる。
「グダグダとうるせーな、俺達の邪魔しやがって」
「邪魔してるのは、お前たちの方だろう。スクールの入口にバイクで群がって、迷惑だ」
騒ぎの元に着くと、何やら不良集団と半裸の青年が揉めている。
てか、ほんとにこの島は半裸多いな。
「マオ、あの変な集団は?」
「あれは、スカル団っていうの。無茶な事を要求してきては、バトルしてくる嫌な奴らよ」
なるほど、アローラの敵組織はスカル団というのか。でもどうせ今回も、あのロケットな三人組が何処かにいるんだろうなぁ。
「はんっ、バトルで勝てたら見逃してやらんでもない」
「アニキの言うとおりっスカら!」
「そーだそーだ」
「……後悔するぞ」
どうやらバトルする様だ。
スカル団とやらが全員ポケモンを繰り出した。
「おいおい、三対一は卑怯だろう」
「まったくだぜ」
これは見逃せないな。俺とサトシは半裸の青年の元に歩く。
「ちょ、ちょっとユウキ、サトシ! 危ないよぉ!?」
「おい、お前ら。卑怯な事はやめろ」
「そーだ! 俺達も加勢するぜ! えっと……」
青年の隣に並んだ俺達はモンスターボールを持ち、サトシが青年の名を聞く。
「カキだ。だが、助けはいらん」
青年、カキは俺達を一瞥してボールを投げる。
「バクガメァ!」
「おーっ、カッケーェ!」
見たことないポケモンにサトシは目を輝かせる。
「まぁそう言うなよ、丁度三対三だ。やるぞサトシ」
「ああ、ピカチュウ! 君に決めた!」
「ピッカ!」
サトシは肩に乗ったピカチュウを前に出し、俺は。
「よし、行け。バクフーン」
「バクファーン!」
最初の相棒である、バクフーンを選出した。
「なるほど……そのバクフーン、強いな。だが、無理はするなよ」
そう言ってカキは、自分のポケモンを前に出す。
「はっ! 俺達が勝ったら、お前らのポケモンまとめて貰うぜ!」
「アニキの言うとおりッスカら!」
「そーだそーだ」
……取り巻きは同じ事しか言えんのか。
スカル団は一人三匹ずつ、ポケモンを繰り出した。
「おい、お前ら! どこまで卑怯なんだ!」
「ピッカ、ピカピ!」
まぁ、どれだけ出しても結果は変わらんだろう。
「サトシ、まとめてやればいいだけだ」
「それもそうだな。よしピカチュウ、十万ボルト!」
サトシが戦い始め、俺も指示を出す。
「バクフーン、ふんか」
繰り出したふんかで、目の前のズバット三体を吹き飛ばす。
「なっ、一撃で!?」
俺は一人を瞬殺し、隣を見るとサトシの方も終わらせたみたいだ。
残りのカキの方を見ると、相手のポケモンが迫っていて、攻撃を受けそうになっていた。
「おい、大丈夫なのか?」
「問題ない」
そういうとカキはポケモンに指示を出した。
「今だ、バクガメス。後ろを向け」
指示通り、カキのポケモン。バクガメスは相手に背を向けて相手を受け止めた、その瞬間。
「うおっ!?」
バクガメスの背中の甲羅が爆発した。
「すっげぇ、なんだ今の!?」
サトシが興奮した様子でカキに聞く。
「こいつの甲羅に触れると爆発する技、トラップシェルだ」
爆発で吹き飛んだ相手のポケモン達は、まだフラフラと立っている。
俺とサトシは手伝おうと指示を出すが、カキが手で制して口を開く。
「いや、任せろ」
そう言って、腕を交差する。
「俺の全身全霊! アーカラの山のごとく熱き炎となって燃えよ!」
カキは、何かセリフをしゃべりながらポーズを決めている。
……なにやってんだ?
「ダイナミックフルフレイム!」
カキの動きが止まった時、バクガメスが光に包まれて、強大な炎を繰り出した。
「ガメァァ!」
バクガメスは相手のポケモン全てを吹き飛ばして、バトルの決着をつけた。
「くっそー、覚えてろよ!」
「アニキの言うとおりッスカら!」
「そーだそーだ!」
勝負に負けたスカル団はスタコラサッサと逃げていく。
「すっげぇ、なあカキさっきのはなんだ!?」
「俺のバクフーンよりも、デカい炎だったな」
ホントにデカかった。なんなの? アローラのポケモンって皆あんなに強いの?
「あれは、Z技と言う。一度しか出せない必殺技だ」
だよね。あんなのポンポン出してたら、俺のポケモン達はインフレについて行けないよ。
「Z技は、アローラに伝わる特別な技でね。島めぐりという儀式に参加し、ある試練を達成した者のみがZワザを使えるようになるんだ」
落ち着いた俺達の元に、博士たちがやって来る。
「ユウキ、サトシ! もう、いきなり飛び出すからびっくりしちゃったよ。でも二人とも強いんだね!」
「うんうん、メガトンパンチ級にいいバトルだったぜ!」
マオと博士が俺達を褒めるが……やっぱりククイ博士も変な所がありましたね。
なんだよメガトンパンチ級って。
「うん? なぁユウキ、あれってポケモンかな?」
サトシに声を掛けられ、指を指された方に目線を向けると。
「えーっと、なんだ? あの黄色いの」
見た事ないポケモン? だな。
「どうした? ユウキ、サトシ」
「いや、なんか見た事のないポケモンが空を飛んでいたんですよ」
「あれは絶対ポケモンだよ! こう、体が黄色くて大きいトサカがあって」
博士にサトシが体を大きく振り、精一杯の説明をする。
「もしかして……カプ・コケコかもしれません」
「あぁ、島の守り神。と伝えられるポケモンだな、二人とも見たのか?」
リーリエと博士が驚きの表情で聞いてくる。
「守り神、か……」
やっぱりそういう存在と会うと、ワクワクするなぁ。
その日の夜、泊まっているホテルで夕食を食べていたら、嬉しそうな顔をした母さんに聞かれた。
「二人とも、何かあったの?」
「ん、なんで?」
「だって元気に疲れているんだもの」
なんだ元気に疲れてるって。
「いや、実はさ」
サトシが興奮した様子で、今日の事を話そうとすると、何かの鳴き声が響き渡る。
「今の聞こえたか、サトシ」
「あぁ……こっちからだ!」
「あ、こら待て!」
「サトシ、ユウキ!」
またアイツは走り出して!
少し離れた所に、サトシの後ろ姿が見えた。
「おい、まだご飯を食べてる途中だろっ……て」
サトシの目の前には、カプ・コケコが浮かんでいた。
「これを俺に?」
カプ・コケコからサトシに、フワフワと何かが渡される。
「なぁ、サトシ。それってカキが付けてたモノに似てないか?」
「やっぱりそうだよなぁ、もしかして俺もZ技出せる様になるのかな!?」
サトシはテンションが上がって、小躍りしてるとカプ・コケコは俺の前にも浮かんでくる。
「コーッコ」
そして俺にも渡された、リングのモノ。
「俺にもくれるのか?」
カプ・コケコは問いに答える事なく、飛んでいく。
「おっ、ユウキも貰ったのか!」
サトシは嬉しそうにリングを付けながら、此方に見せてくる。
「あぁ」
サトシのリングには黄色いクリスタルが埋め込まれている。
……俺のは窪みになってるんですが。いや、まぁうん。別に気にしない。
そして、夜が明ける。
「ママ、ありがとう! この島に残るのをすぐに許してくれて」
「いいのよ、貴方達の母親なんだから」
俺とサトシは母さんに頼み込んで、アローラに残る事になった。
「でも、ククイ博士にご迷惑かけない様にね。ユウキ、しっかりと頼んだわよ」
そして、ククイ博士の家でお世話になる事になったのだ。
「わかってるよ、母さん。ほら、サトシそろそろ時間」
「あぁーっ遅刻する! じゃあママまた」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
扉の向こうから、出来たばかりの友人達の声が聞こえてくる。
「みんなアローラ! 今日は新しい仲間達を紹介するぞ」
先に教室に入ったククイ博士に呼ばれて、俺とサトシは部屋に入る。
「アローラ」
「アローラ!」
今日からは、今までの旅とは違う新たな日々が始まる。
凄く楽しみだ。