転生先はポケモン 33話

 アイナ・食堂~幸せのパン~

 

 今日、俺達はアイナ食堂に来るようマオから招集をかけられていた。
 メンバーはいつものメンツ。カキは妹と買い物に行くという用事を優先して、此処にはいない。
 まったく、あのシスコンめ。
「・・・・・・どうした? スイレン」
「いや。なんか激しく突っ込みたい気分になって」
 俺の事をジッと見ていたスイレンに首を傾げていると、前から咳払いが聞こえた。

「えー、今から皆さんには、新メニューを考えてもらいます」
 まるでバトルロワイアルが始まるかのような口ぶりで軽く言ったマオに、リーリエが手を挙げて疑問をぶつけた。
「えっと・・・・・・それは構いませんが、何故ですか?」
 すると、今まで無表情に近かったマオの表情が崩れた。

「――の」
「え? なんだって?」
 下を向いてボソッと言ったマオに聞き返すと、勢いよく俺に迫って肩を掴んできた。

「売り上げが伸びないの! むしろ下がってるの! お父さんと相談したら、最近は新規のお客さん来ないし、新メニューでもどうかって・・・・・・だからお願い手伝ってーっ、このままじゃマンネリに入ってお店潰れちゃうよぉっ!」
「いや、潰れるって、大げさっ、とりあえず、揺らすのは、うぷっ」
 涙目でグワングワン揺らすのは止めてほしい。 
 店じゃなくて俺が潰れてしまう。

「分かりましたっ。不肖ながらこのリーリエ、お手伝いしますよ!」
「あぁっ、俺も協力するぜ! 面白そうだし、なっピカチュウ!」
「食べ物の事なら僕も協力するよっ」
「無論、私も」
 皆、やる気満々意気投合なのは結構だ。だが、

「あ゛り゛か゛どーっ゛」
 とりあえず、この緑を止めてくれ。
***

「さて、なにか意見ある人は?」
 場所は移り、厨房。
 マオの言葉に、マーマネが挙手する。
「ここは食堂で、ちゃんとした料理がいっぱいあるよね? でも、他の店と比べて軽食が少ないんだ。だから、パンとかはどうかな?」
 さすがマーマネ。ここら一帯の店はリポート済みか。
「むっ、確かに・・・・・・。よしっ、パンを作ろう!」
 とりあえずの目標が出来た所で、準備にとりかかる。
 ふむ。パンの中身は何にしようか。
「ん? スイレン、なに持ってるんだ?」
「なにって・・・・・・見ての通り、海鮮物」
 ・・・・・・パンを作るんだよな? あっ、そうか、フィッシュバーガーみたいのを作るのかな。きっとそうだ。
 目を逸らした先には、栄養剤が入った瓶を持ったリーリエ。
「・・・・・・リーリエは何を作る気なんだ?」
「へ? 健康的なパンですよ? こうしてパンの中に錠剤を入れれば生地に溶けて、豊富な栄養を採れるんです。そう、わたくしの計算では――」
 ブツブツ独り言を言うリーリエから離れて、マオの肩を掴む。
「マオ、諦めろ」
「まだ始まってないのに!?」
 おかしい。俺の記憶では、お泊まり会の時にはバーネット博士と一緒にキチンと料理をしていた筈だ。
 その場にはリーリエとスイレンも居て・・・・・・あれ? その時は素材を切ってただけ・・・・・・味付けなどはマオと博士が・・・・・・あっ(察し)
 
 希望をマオ達に託して、俺もパン作りに取り掛かる。
 材料を混ぜ、出来た生地をこねくり回す。
「んっ、ふぅ。パン作りって体力使いますね」
 まぁ確かに、ずっと腕を力強く動かすから疲れてくるな。
「ほっ、やっ、はっ」
「マオは流石だな。パン作り慣れてるのか?」
「一通りの料理を学んだからねっ。これくらい楽勝だよっ」
 ボーッと生地をこねていると、感触が変わってくる。
 ちょっと固さが入って良い具合だ。
 ・・・・・・パン生地の柔らかさって、あの部分に近い程美味しくなるって聞いた事があったな。
「ん? どしたの、ユウキ?」「どうしました? ユウキ?」
「あっ、いや。なんでもない」
 マオ達を見ながら手を動かしていたら、首を傾げられた。
 いかんいかん。集中せねば。

 ――バシンッ、バシンッ!
「ちょっ、どしたのスイレン!?」
「・・・・・・別に、生地をこねてるだけ」
 俺は、叩きつけるように生地をこねているスイレンから目を逸らし、パン生地を寝かせにいく。

それから一時間後。
 ぷっくりと膨らんだ生地をちぎり、形を整える。
 無難に丸くでいいか。
 一つ一つちぎって、中身のソーセージを包むように丸く作っていく。
 ソーセージの両端がはみ出ているが、これもデザインの内だと納得し、オーブンに突っ込んだ。

「ん? サトシ、なんの形にしてるんだ?」
 見たところ、何かのポケモンの様だが・・・・・・。
「あっ、分かったぞ。ミミッキ――」
「へへっ。そう、ピカチュウだぜ! よく分かったなっ」
「えっ、あっ、うん」
 どう見てもミミッキュなんだが。ここは温かい目でスルーしよう。
 ほら、サトシの肩に乗ってるピカチュウも納得――してませんね。そりゃそうか。
「中身は何だ? ・・・・・・ふーん、イチゴジャムか。サトシにしては無難だな」
「へへっ。ピカチュウパンなら、何でも美味いに決まってるからな!」
 ピカチュウに対する信頼度は流石だな。
 肩に乗ってるピカチュウも嬉しそうにしてる。
 形を整え終わったサトシは、オーブンに向かい、
「今からピカチュウを焼くぜ!」
「言い方な」
 ほら、ピカチュウが逃げてったぞ。

 更に一時間後。それぞれのパンが焼き上がり、テーブルに並べて試食会になった。
「じゃあ、まずはあたし。マオちゃんからだよっ」
 マオが自信満々に差し出してきたパンからは良い匂いがする。
『いただきます』
 一斉に囓り、咀嚼する。
『・・・・・・美味しい!』
 見た目はプレーンだが、ほのかに木の実の香りを感じる。
「むむっ。蕩ける甘さを感じたと思ったのに、今度は柑橘類の酸味・・・・・・この様々に変化する味、オレンの実だね!」
「正解だよっ、マーマネ」
 ふむ。オレンの実のエキスをふんだんに混ぜたのか。
「結構美味しいと思うが、偶に苦い雑味を感じる。そこが問題だな」
 俺の指摘に、タハハと頭を掻くマオ。
「そうなんだよねー。でもオレンの実の特性だし、どうにもね」
 改善の余地があるかもしれないと、採用は保留。
 お次は、
「僕だねっ。ふふーん、自信作だよ!」
 そう言って出したのは、食パン。

「今回発明した、この『デリシャスセンサー』を使えば、どんな素材を混ぜれば美味しくなるか測定出来るんだ!」
 百聞は一見にしかず、食パンを囓る。
『美味しい・・・・・・』
「ま、まーねっ」
 褒められて嬉しいのか、マーマネは顔を赤くしている。
「けど・・・・・・ねぇ?」
「あぁ、はい」
 美味しいと言ったのに、皆の表情は微妙だ。
「なんか、暖かさを感じないっていうか・・・・・・」
「え!? いや、焼きたてだよ!?」
 追加の評価に、マーマネは慌て始めた。
「あぁ、そうじゃなくて。ほら、料理は愛情。なら、機械に頼りきった味は、美味しいけど美味しくないっていうか・・・・・・」
 まぁ、マオの言いたい事は分かる。
 どんな素材を使って作るのか、どんな味になるのか。
 そうして試行錯誤した料理は、美味しいからな。
「ちぇっ。美味しい筈なのになぁ」
 微妙に納得していないマーマネを置いて、次の番。

「じゃあ次はユウキだね」
 マオに促され、パンを皆の前に出す。
「これは、ソーセージパン・・・・・・でしょうか?」
「よくある奴」
 スイレンの言葉に少しダメージを受けながら、皆の評価をゴクリと待つ。
「まぁ、美味しい、よ?」
「えぇ。ちゃんと温もりを感じますし。でも――」
「地味」
 うるせぇっ。というかスイレンは手加減してくれ。

 心の涙を流しながら、次の番であるサトシのパンを見る。
「へへっ。どうだ、ピカチュウパン!」
 そのパンを見た俺達の表情は、引きつっていた。
「えっと、どうみてもミミッ――」
「食ってみてくれ!」
 サトシのキラキラした目に、マオ達は何も言えず、パンを囓る。
「美味しいけど・・・・・・うわぁ」
「ちょっとこれは・・・・・・出せないと思います」
「ホラー」
 そう。ピカチュウパンはジャムの入れすぎで、少し囓っただけで目や鼻から飛び出してくる。
「そっかぁ・・・・・・。まぁ美味しく出来たしいいや!」
 
 さて、残りは誰が――。
「後はわたくしとスイレンですね」
「ん。持ってくる」
 ハッ、いけない!
「わたくしは、このパーフェクトパンです。これ一つで一日の栄養を補給できる、まさに完璧なパンです」
「私はこれ、オーシャンパン。名前の通り、海の幸を詰め込んだ」
 ・・・・・・パンから不穏なオーラが見えるが、気のせいだろうか。きっと気のせいだ。
「「召し上がれ」」
 そう言われても、俺達の食指は伸びない。
 誰が好き好んで地獄の片道切符を掴むかっ。
 もう嫌だっ。俺は帰らせてもらう!
「あっ、あたしは自分のパンを処理しないといけないからっ」
「僕も自分のを全部食べないとっ」
 くっ、裏切ったな!
「そうだ、サト――」
「ハグハグっ。ピカチュウパンうめぇ! あっ、ユウキのも美味いぜ?」
「この野郎っ! それ以上腹を膨らませるなっ、目の前のダークマターを食えッ――ハッ!?」
「誰のパンが・・・・・・」
「ダークマター、なんでしょうか?」
 ケヒッ、と笑い声を上げながらジリジリと近づいてくる二人。
「違うんだ。そうじゃない。話を聞いてく――ムグッ」
 何かが俺の口に突っ込まれた。

 ・・・・・・どろどろして、ぐちゃぐちゃと俺の口内を蹂躙していくナニか。
 生臭い固形物が喉を通り、次に栄養ドリンクの匂いが鼻から抜ける。
 パン生地はアッサリとしていた筈なのに、口の周りはベトベトだ。
 命をかけた、最後の咀嚼。今までの暴力とは違い、優しい無味。
 おれは、めのまえがまっくらになった。
***

「ハッ、所持金がゼロに!? ・・・・・・って、マオ?」
 目が覚めると知らない天井ではなく、マオがいた。
 というか膝枕だった。
「あっ、ユウキ。今日はごめんね」
「別に気にする必要は無い」
 もう少し堪能していたかったが、外を見ると夕焼けだったので起き上がる。
「皆は?」
「もう帰ったよ」
 ちっ。サトシのやつ、置いて行きやがって。

「新メニューはどうなったんだ?」
 固まった背骨を鳴らしながら聞くと、顎肘ついて厨房を見ていたマオが俺に振り返った。
「うーん、保留かな。・・・・・・よく考えたら新メニューだけで売り上げあがる訳ないし」
「えぇー。じゃあ今日の頑張りは?」
「だから今日はごめんねって。まぁ、色々と参考になったし無駄じゃないよ」
 無駄になったら俺の死が無駄になるから怒るぞ。
 いや、死んでないけど。

「しっかし、なんで最近は客足が遠のいてるのかね。こんな可愛い看板娘が居るのに」
「もうっ、からかわないでよー」
 やれやれと呆れているが、その顔は赤かった。
 そっちに夕日が差し込んでいるのだろうか?

 そろそろ帰ろうかと出口に向かうと、マオに呼び止められた。
「そういえば、前に言ったっけ? このアイナ食堂をアローラ一にするって」
「あー、言ってような気がする」
「気がするって・・・・・・」
 朧気な記憶に、マオは口を尖らせ不機嫌な様子で近づいてくる。
「それは今でも変わらないし、諦めない。んでねっ、もし本当にお店が潰れそうになった時は、一緒に盛り上げてくれる?」
 そう聞いてくるマオは笑顔だが、何処か悲しさを感じる。
 そよ風で吹き飛んでしまうような姿を見ていられず、吹き飛ばされないように、マオの頭に優しく手を乗せる。
「だから潰れるとか大げさだっつの。まぁ、その時は手伝うよ」
「・・・・・・うん」
 マオの様子はまだ戻らない。
 だから俺は、からかうように軽口を叩く。

「あっ、そうだ。仮に潰れちゃったりしたら、二人で新しく店を開くか? アイナ食堂二号店。あっ、名前はもっとちゃんと考えるか」
「もうっ、大事なお店は潰させないよっ!」
 そう怒るように俺の両頬を引っ張るマオだが、元気は戻ったようだ。
「まったくもう。・・・・・・でもそれもいいかもね」
「なんだって?」
「なんでもないよ」
 ボソッと言うマオの言葉を聞き取れず、背中を押されて店の外に出される。
「ユウキ、ありがとねっ」
「ん? あぁ」
 訳の分からない礼を受け取り、帰り道を歩く。
 チラリと振り向くと、マオが手を振っていた。
 俺の姿が見えなくなるまで、ずっと。
***

 それから数日後。
 売り上げが伸びないと喚いていたマオだが、アイナ食堂は客で溢れかえっていた。
 マオに聞くと、どうやら偶々客が来なかっただけで、シーズン中は変わらず満員御礼になると、マオのお父さんが言っていたそうだ。
 なんだかくだらないオチに気が抜ける。

 更に、最近何故かリーリエとスイレンが鬼気迫る表情で追いかけて来る。
 逃げながら訳を聞くと、
『――将来はマオとお店を建てるんですか? 看板娘ならぬ看板夫婦ですか?』
『――怨気満腹、怨敵退散』
 リーリエは仄暗い目で訳分からん事いうし、スイレンに至っては怖いの一言しか出ない。
 マオに助けを求めても、顔を赤く染めてイヤンイヤンと体をくねらせるだけ。
 それを見たリーリエ達が更に追いかけて来る悪循環だ。

 そんな生活を強いられている俺だが、最近ハマった事がある。
「よーし、出来た。ベベノムパンだ」
 そう、パン作り。
 あれから毎日のようにパンを作る程にハマってしまった。
「どうだ、ベベノムーお前そっくりだろう? ブルーベリーで色付け――ベベノム?」
 そして最近、困った事も出来てしまった。

『・・・・・・べべ』
 ベベノムの元気がない。
 寝起きには必ずベベノムのペンキが飛んで来るが・・・・・・それもない程、何故か落ち込んでいる。
「ほら、これ食って元気だせって。美味いぞー?」
 ジッとパンを見たベベノムは、受け取って食べる。
「美味いだろ?」
 そう聞いても、黙々と食べるベベノム。
「・・・・・・はぁ。まだあるから、おかわりは好きにな」
 使った食器を片付けようと、キッチンに向かう。
『ベベッ』
 その時、食べ終わったベベノムが、天井にナニかをペンキで描き始めた。
「ちょっ、落書きすんな――ん? これ、どっかで見たな」
 
 天井に描かれたのは、複数の翼を大きく広げた鳥の様な生き物。
「あっ、確かウラウラ島の図書館で借りた本の・・・・・・」
 前に家で見た本に書いてあったポケモンだ。
 確か、名前は・・・・・・。
「かがやき様?」

 ・・・・・・なんだかまた、俺の嫌いな雰囲気が訪れそうだ。