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※この作品は、ノベルデイズ様で開催された超短編コンテストに投稿した小説です。

(5000字以内の短編・今回のテーマは「ラストレター」)

 


 貴方の目的は見返す事でしたね。
 確か、高校の同窓会で会った女の子達に彼女がいない事を馬鹿にされたとか。
 そんなくだらない事に、私は造られました。
「ご、シュじ、んサマ。アサ、ごはんのヨウイが、できま、ガガが」
 それはもう、十年以上前の事。私はもう発声機関が上手く働かない程に錆び付きました。
 ガタついた手足を動かして、四六時中パソコンに齧り付いているご主人様に、熱々のソーセージと焦げ付いて黒くなっているトーストを乗せたプレートを運ぶ。
***

 とある日。神の怒りかと思う程に天気が荒れて、外出もままならない休日。
 私は目が覚めました。初めて目に映ったのは、金属や電気ケーブルが散乱している、汚くて狭い部屋。
 目測でワンルームの汚部屋。
「ガがッ、うぅん。此処は、どこでしょうか?」
 些細な疑問。私は目の前の男性に造られた事を、プログラムで理解しています。
 けれど、こんな人が生活出来ないような部屋はなんでしょうか。私はここで生まれたのを認めたくないです!
「・・・・・・やった。成功だッ」
 貴方は私の疑問に答えず、ただ喜ぶばかり。
「いいか? お前はこれから僕の彼女として過ごすんだ」
 かと思えば、最低な指示。そんな初めての命令は、
「嫌です」
「なにっ!?」
 もちろん、断ります。女性型として生まれたなら、伴侶くらい自分で選びたい。
 ロボットのくせに生意気、でしょうか?
「くそッ、失敗じゃないか。一度バラしてプログラムを組み直すか」
 おっと、生まれてから数分で私の命は終わりのようですね。
「お待ちを。私はご主人様に造られた事を理解しています。なので、メイドとしてご奉仕くらいはさせていただきます」
 遠回りの命乞い。せめて少しくらいは動きたいです。
「ふむ。そうだな。バラすのも面倒くさいし、暫くは休む事にするか」
 なんとか生き残ったみたいですね。
「さて早速、朝ご飯を作りましょうか」
 木製の椅子から立ち上がり、体のパーツの調子を確かめながら台所に向かう。
 手足の関節は、オイルを塗られたばかりで滑らかに動く。
 胸に手を当てると、金属の板が・・・・・・。これだけが不満ですね。
「おい。飯を食うのは面倒くさいから、簡単なものにしてくれ。トーストとか」
 ご主人様の体は痩せ細り、顔の頬の肉も殆ど無い。
 不摂生な人だと、すぐに分かりました。

「出来ましたよ」
 トーストだけでは栄養が足りない。少しくらいタンパク質も補給してほしいので、ソーセージも焼きました。
「あぁ」
 パソコンに齧り付いている貴方の素っ気ない返事。
 まぁ、いいでしょう。さて、外で散歩でもしましょうか。
「ご主人様、お夕飯のお買い物にでも行ってきます」
 顔の中はそこまで精密に造られていないのか、表情は動かない。
 けれど、心臓の位置にある機関が少し跳ねているのを感じますね。
「待て。必要無い」
 おや。鼓動が止まってしまいました。
「完全に僕の命令が聞けない奴を、外に出すわけにはいかない」
 ご主人様は私の胸の真ん中にあるスイッチに触れて、
「用事がある時だけ起こす。じゃあな」
 どうやら私は、自由に動けないようで__。
***

 それからも、朝ご飯の時だけ起こされて、作り終わったらスイッチを切る。
 そんな私の生活が始まりました。

 最初はもちろん不満でしたよ。
 私はまるで貴方にとって都合のいい道具。
 いえ、貴方に造られたロボットなんですから、実際そうなんでしょう。
 いつかも言ったように、私だって女性型。ロボットだって恋がしたい。
 毎日毎日、どうにか外に出れないか演算していました。
「どこに行くつもりだ?」
「お花に水をと・・・・・・」
「家の周りはコンクリートだ」
 私はロボットです。人間に出来ない計算をして、貴方の隙をついて逃げましょう。
「だから外に出るなと言っているだろう」
「いえ。そろそろ門限なんで、お暇しようかと」
「お前の家は此処だろうが」
 どうやら私はポンコツなロボットだったみたいです。
 これ以上は思いつきません。大人しく、今日もトーストとソーセージを焼きましょうか。

 でも、ある日。私に転機が訪れました。
「おい。外出するから着いてこい」
 奴隷のようにせこせこと、朝ご飯を作っていたら信じられない事が聞こえました。
「申し訳ありません。どうやら耳のパーツが逝かれたみたいです」
「正常だ、馬鹿」
 ご主人様は何を考えているのでしょうか?
 電脳をフル回転させて、オーバーヒートを起こしそうなくらい思考していると、ご主人様は白いワンピースを持ってきました。
 こんな汚部屋のどこに、綺麗な服なんか・・・・・・ましてや、女性モノ。
「コレを着ろ。メカメカしい手足の関節が隠れるからな」
 元々、自分の彼女にするために私を造ったのですし、コレも私の為に買ってあったのでしょう。
 ぶっきらぼうに渡す、その表情。無駄に高性能な私の目で見ると、照れているのが分かります。お可愛いですね。

 小鳥の囀りが耳に気持ち良く、深呼吸をすると、体の中にある錆が落ちるような清涼で新鮮な空気を感じます。今まで埃臭い部屋に居ましたから、尚更です。
「こっちだ。行くぞ」
 とてとてと、ご主人様に着いて行く。
 すれ違う、塀の上で丸くなっている猫。ふよふよと飛んでいるモンシロチョウ。
 何もかもが輝いて見える、この世界。
「ここだな。変な事するなよ」
 連れてこられたのは、お洒落なカフェ。
 周りを見ると、男女が一組で居るのが殆どですね。
「なるほど。ご主人様は優越感が欲しくて、私をここに__」
「うるさい。スイッチ切るぞ」
 おっと。ここで切られたらたまったものじゃありません。

 大人しくご主人様とコーヒーを啜っていると、騒がしい女性の三人組がお店に入ってきました。
 というか、ロボットがコーヒーを飲んでいていいんでしょうか? 今更ですね。

「あれ? アイツじゃねぇ?」
「あっ、本当だー。うけるー」
「綺麗な人がいるけど、彼女かな? ありえないか」
 その三人組は私達の方へ歩いて来ると、見下した目で笑いました。
「ねー、ソイツって彼女? それとも、金で買ったレンタル彼女ってやつ?」 
 そう言って笑う彼女達。何故でしょう。今なら素手でこのテーブルを叩き割れそうです。
 ロボットですし、出来ますよね。ご主人様に迷惑掛けるから、やりませんけど。
「・・・・・・出るか」
 ご主人様は相手にせず、お会計に向かいました。
「ねー、あんたさ。あいつと付き合ってるなら別れた方がいいよ」
 私も行こうとしたら、呼び止められました。でも、何故そんな事を言うのでしょうか。
「あいつ根暗だし、ガリ勉でつまんない奴だからさ。あんた凄い美人だし、男なら紹介したげるよ?」
「・・・・・・結構です」
 くだらない。ご主人様を理解せず、外見だけで判断する。
「貴女達の方が、つまらないです」
 そう言うと、唖然としていましたね。鳩が豆鉄砲、というものでしょうか?

 家に帰ると、ご主人様が詰め寄ってきました。
「なんで余計な事を言った」
 なんで、ですか。そんなの決まっているでしょうに。
「ご主人様。貴方はいつも、人の為になる事をしています」
 毎日パソコンに齧り付いているのは、体が不自由な人の為にロボットの設計図を書いているから。貴方が、とても素晴らしい人だと理解しています。
「何も理解していない輩に、私のご主人様が馬鹿にされるのは我慢なりません」
 さて、言いたい事は言いました。いつものように眠るといたしましょうか。
「・・・・・・なにをしている。寝るなら僕の夕飯を作ってからにしろ」
 定位置である木製の椅子に座ったところで、また耳のパーツが逝かれたみたいですね。まったく。
「はい、ただいま」
 その日から私の仕事が増えまして、スイッチを切られるまでの時間が延びました。
***

 いつものように、ご飯を作る日々。
 偶に、ご主人様の愚痴や相談を聞く事も増えました。

 それから、十数年。
 段々と体の錆が増えて、腕の関節もギシギシと鳴ります。
 下半身もマトモに動かず、車椅子型になりました。
「ご、ハンの、ヨウイができ、マシタ」
 今日もこの小さな汚部屋を器用に車椅子で移動して、ご主人様に朝ご飯を届けます。
「あぁ」
 ご主人様は変わらず、素っ気ない返事。けれど、感謝しているのはキチンと理解しています。

 いつの日か、私は恋がしたいと言いました。
 もう殆ど黒い部分が無い、白髪頭。
 片方のレンズが割れているメガネ。
 不機嫌にパソコンを睨み付ける、その目。
 私は今、恋をしています。

 あの日以来、一度も外に出ていません。
 毎日、ソーセージとトーストを焼くだけ。
 けれど盗み見る貴方の表情に、いつからか惹かれていきました。
 チョロイン、というのでしょうか? でも、十数年同じ部屋で過ごしていたら、仕方ないと思います。
 
 夕飯を作り、スイッチを切られるまで、貴方の作業を眺める。
 これだけで、私は幸せを感じます。

 しかし、今日はいつまで経ってもスイッチが押されません。
「・・・・・・ご、シュジン、さ、ま」
「・・・・・・うるさい」
 どうして、貴方は悲しそうな目をしているのでしょうか。
 どうして、胸のスイッチに触れないのでしょうか。

「わかってる、だろうが。お前はもうバッテリー、が」
 えぇ。理解しています。
 でも、充分なんです。
「ありガ、が、トうござ、い、まス」
 まさか泣いてくれるなんて。まさか、戸惑ってくれるなんて。
 少しは貴方に、ご主人様に好かれていると分かっただけで、私は充分ですよ。

「俺は、お前を彼女にする為に造った。でも、お前は断ったな」
 そういえば、そうでしたね。それなら何故、今日まで解体されなかったのでしょうか。
「別に、本気じゃなかった。でも__」
 おや、ここにきて衝撃の事実です。
「今は、好きなんだ。ただの飯運びロボットに惹かれているんだ」
 酷い言い草ですけど、本当に衝撃の事実ですよ。
「だから、押したく、無いんだ!」
 こんなガラクタの体です。トーストも、ソーセージも、上手く焼けなくなってしまいました。
 せっかくの栄養源を焦がしてしまう。私はもうこれ以上、役目を果たせないようです。

「ご、シュじんさ、ま。だいす__」
 もう喋れません。どうやら、体内の機関は駄目になったみたいですね。
 代わりに、まだ動く右手を動かして、ご主人様の手を取り、
「お前・・・・・・」
 胸のスイッチまで持っていく。最期に貴方の驚き顔も見れたことですし、もう__。
***

「ねー、ご主人様ー。脳内ファイルに知らないメッセージがあるんだけどー」
「あん?」
 場所は、金属や電気ケーブルが散乱している、汚いワンルーム。
 この部屋で、少女型のロボットが初老の男性に声をかけた。

「えーっと、『貴方を、ご主人様を未来永劫、愛しています』だって。なにこれ?」
「・・・・・・あぁ。そうか」
 
 初老の男性は微笑むと、隣に居るロボットに命令した。

「熱々のソーセージと、トーストを焼いてくれ。少し、焦がした感じのな」

――了