変態教師は触りたい 4話


「邪魔する――む、居ないのか?」
 生徒会室に訪れた西園寺だったが、シンッとした空間に首を捻る。
「会長達なら、備品の確認に行ってますよ」
 その時、ソファの裏から男子生徒がのっそりと出てきた。
「お前は行かなくていいのか? 石上」
 石上優。データ処理のエキスパートで、会長からスカウトされた優秀な生徒会会計である。

「藤原先輩も行ってるし、人数的に充分かと」
 不真面目に見える彼だが、毎日生徒会の活動に参加している皆勤賞。いつもは手早く仕事を終わらせて先に帰っているので、こうして姿を現すのは珍しい。
「そうか」
 やる事も無い西園寺はソファに座り目を瞑る。
 すると、反対側に座った石上は控えめに声を出した。
「あの、四宮先輩ってどう思います?」
 ゆっくりと目を開けた西園寺は石上を見つめて、
「やめとけ」
「えっ、と?」
 思春期の男子が女子の事を聞くのは十中八九、恋愛絡みだと思っている西園寺は石上に忠告をする。
「四宮は、白銀しか見ていない。お前の事はきっと、眼中に無いだろう」
 普通なら辛辣だと思われる発言。だが、石上は安堵の息を漏らした。
「マジすか。それならまだ僕は生きていられるんですね」
「ん? まぁ、気を落とすな」
 恋愛相談だと勘違いしている西園寺はとりあえず石上を慰めた。
 だが突然ハッとした石上は、また怯えた目をして震え出す。
「会長しか見ていない・・・・・・会長が、危ないッ!」
「危ない?」
 言っておくが、これは石上の恋愛相談では無い。
 石上は偶然的に四宮の恋愛頭脳戦に巻き込まれて、目を付けられている。
 それを殺意の視線として捉え、恐怖している石上は助けを求めているにすぎない。
「・・・・・・確かに、白銀はこのままだと墓場行きか(結婚は人生の墓場って言うしな)」
「会長には恩義がある。どうにかして助けないと。ついでに藤原先輩も」
「藤原も?」
「四宮先輩は時々、藤原先輩を家畜か何かを見るような眼で・・・・・・きっと僕より危険だ」
「なにっ。(それは、こういう事か!? 『――かぐやさん。もう、やめてくださいっ』『モーモーと煩いですね。この乳ですかッ、この乳がこんなに沢山のミルクを出すのですか!』『ンモゥーッ』)」
 決意の眼をして立ち上がる石上の傍で、息を荒くして興奮している西園寺。
「けしからんな」
「えぇ、由々しき事態です! こうなったら僕にヘイトを集めるしか・・・・・・ちょっと会長達の所へ行ってきますッ」
 ハァハァ言っている西園寺を置いて、石上は生徒会室から飛び出していった。

「ふぅ。(最近は手を使わなくてもイケるな)」
 
 後日。石上は更なる恐怖を植え付けられ、白銀に生徒会を辞めようと相談するが、それはまた別のお話なのである。
***

「まじー? ちょーウケるー」
「んでさー、あれ? 今日もバイト?」
 放課後。下駄箱でギャルギャルしい生徒達が談笑していた。
「まじごめーん。こんどは絶対オケいこねーッ」
 そこで一人の女子生徒が残った。
「さて、いきますか」
 この金髪でサイドテールの少女は、早坂愛。
 四宮家使用人の、かぐや専属近侍である。

「む。早坂、スカートが短いぞ」
 四宮を迎えに、生徒会室に行く早坂を呼び止める教師が居た。
「えぇー。ギリセーフっしょー。まぁ、ちょこーっと短いかもしれないけど、その方が嬉しいんじゃない? 西園寺センセ」
「馬鹿言うな(おほーッ。めっちゃ嬉しい!)」
 早坂はスカートの裾を摘まんで西園寺をからかう。
 チラリと周りを見た西園寺は、小さな声で早坂に問うた。
「辺りに生徒は居ない。やめたらどうだ?」
 それを聞いた早坂は、さっきまでの媚びている顔から一転して、鋭く尖った態度に変貌した。
「校内では何処で誰が見ているか分かりませんから」
 西園寺は早坂の猫被りに気付いてる。
 そして、
「今からかぐや様を迎えに行くんですが、貴方は来ないでくださいね」
「何故だ?」
「かぐや様に変態が移ったら大変ですから」
 そう、早坂愛は気付いている。
「いや、四宮に興味ねーし。てか四宮は怖くて無理だわ」
 更に、自身の性格を知られている早坂には、西園寺は素で話す。
「とにかく、早急に消えてください」
「はいはい」
 この二人は、少し前にとある事情で校外でバッタリと出会した。
 その時、互いの本性に気付いた二人はある契約を交わす。

『――では、貴方の事を黙っている代わりに』
『俺は四宮とお前が繋がっている事を生徒会にバレないように、か』

 互いの秘密を共有した二人。だが、
「ところで、もう少しスカート上げてみない?」
「くたばれ変態」
 仲がいい訳ではない。
「ちっ。そんな格好してんのは見られたいからなんだろ? ん?」
「典型的な痴漢おやじの台詞じゃないですか」
 西園寺の発言に引いた早坂は、軽蔑の眼で一歩下がった。
「もう行きます。これ以上変態に構ってたら変態菌が飛んできそうです。悍ましい」
 ブルリと身を震わせた早坂。さっさと生徒会室へと歩き出すが、
「ん? おい、早坂」
 西園寺は呼び止めた。
「はぁ。・・・・・・まだ何か?」
 振り返った早坂の目の前には、西園寺の顔が。
「――ッ」
 西園寺金継は顔だけはいい。顔だけは。
 幼少の頃から四宮に付き従い、近侍として働いている早坂だが、れっきとした年頃な女の子。
 なので、中身はともかく急にイケメンが目前に迫ってきたらドキッとするのは必然!
「離れッ(な、こんな変態に少しでもドキリとなんて、不覚ッ)」
 徐々に顔を近づける西園寺。ギュッと目を瞑った早坂に待っていたのは、
「ぶはッ。お前、髪にゴミつけてやがんの! 藤原のマネか? 藤原のリボンのつもりか!?」
 早坂の髪に付着していたゴミを、爆笑しながら取り除く西園寺。
「ありがとうございます」
 お礼を言った早坂は、
「おごッ」
 西園寺の股間を蹴り上げた。
「このっ、変態! 顔近づけてくんなしッ、最悪だし!」
 倒れた西園寺の背中を何度も踏みつける早坂。
 その表情は羞恥に塗れていた。
「ぐはッ! ありがとうございますぅ!」
 西園寺の表情は、歓喜に溢れていた。

「はぁ、ふぅ。ちっ、無駄な時間を過ごしました」
 満足したのか、早坂はスタスタとこの場から離れる。
 残された西園寺は起き上がると、グッと背を伸ばした。

「あいつも色々とストレス抱えてるし、こういうので発散してくれればいいんだけど」
 西園寺は変態だが、教師である。
 生徒を想い、気遣う事もする。
「・・・・・・案外気持ちよかったし、また蹴られようっと」

 変態には変わりないが。

 本日の勝敗『早坂の負け』変態に数ミリ心を乱された為。