転生先はポケモン 22話


 乗り越えろ! 災難マイナンヒトデマン

 時間の感覚が曖昧になる錯覚に陥るくらいに走っている中、出口が見えてくる。
「もうすぐ・・・・・・」
 グラジオが目線を細くしていると、ソルガレオがゲートを抜けた。
『出たーッ』
 目に映るのは、宝石のように輝く岩の塊が所々に浮かんでいた。
「ここがウルトラビーストの世界?」
「綺麗・・・・・・」
 マオとスイレンが幻想的な場所に目を奪われていると、マーマネが怯えた様子でカキの後ろに隠れた。
「言ってる場合じゃないってっ。何か、いっぱい居るんですけどー?」
 指を指した先には、ルザミーネさんを攫ったウルトラビーストと同じ種類が数え切れない程に宙を泳いでいた。
「こんなに居るとキリが無い。手分けして探すしか__」
 グラジオの提案に皆は乗り気じゃなのか、芳しくない様子。
「少し、怖いな」
「未知の世界は、充分な準備が無いとね」
 中でもマオとマーマネが不安な表情を見せていると、サトシが胸を叩く。
「大丈夫だって! 俺達にはこいつらが、ポケモンが居るんだ」
 皆は顔を合わせると、一斉に頷いてボールを取り出した。
「そうだねっ。来て、アママイコ」
「アシマリッ」「トケデマル、デンジムシ!」
「来い、バクガメスにガラガラッ」
「力を貸して、シロン」「シルヴァディ、ブラッキー、ルガルガン!」
「モクローとニャビーッ、ルガルガンも出て来いッ」
『いざとなったらボクも戦うロトーッ』
 サトシ達が手持ちのポケモンを全員出し、俺も最後の切り札以外に呼びかける。
「頼む、バクフーン、マリルリ。バンギラスにライコウ・・・・・・ラティアスは勝手に出てくるなって」
 仲間が揃い、これからどう動くか話し合っていると、遠くの方に黒いナニかが見えてくる。
「あれは・・・・・・、母さんッ」
 いち早く気付いたグラジオが走りだして、ルザミーネさんの元へ急ぐ。
「なんで黒くなってるんだ?」
 前に見た時よりもウルトラビーストの体は肥大化しており、中に居るルザミーネさんの髪が墨汁に浸けられたように真っ黒だ。
「お母様ッ」
 ルザミーネさんの表情がハッキリと分かる位に近づいたリーリエは、思い切り声を張り上げた。その時__。
「来ないで・・・・・・、来ないでぇっ」
 苦しそうにもがきながらも、拒絶して去っていく。
「待って、お母様ッ」
「いやっ」
 それでもなお手を差し伸べるリーリエだが、
「っ、リーリエ!」
 ルザミーネさんが、傍の岩柱を破壊して破片を頭上に降らしてくる。間一髪で引っ張って助け出せた、けど・・・・・・。
「ユウキッ。そんな、どうすれば」
 岩の破片が降り積もり、巨壁となったせいで皆と分担されてしまった。
「待ってろ、今ソルガレオ達で__」
「あっ、リーリエのお母さんが見えなくなるぞっ」
 サトシが壁を破壊しようとするが、カキの声で中断する。
「・・・・・・俺は大丈夫だから、追いかけろ」
「そんなっ、こんな所でユウキを一人に出来ないよっ」
 マオが声を荒げるが、足音が一つ離れていくのが聞こえた。
「先に行ってるぞ・・・・・・」
「なんで、お兄様っ」
 納得していないリーリエに、俺は檄を飛ばす。
「リーリエ、お前はルザミーネさんを助けに来たんだろう。早く行け」
 グラジオはきっと俺を信じて行ったんだろう。・・・・・・そうだよね? そう信じてるよ。
「ユウキ、せめてバクフーン達を此処に__」
 スイレンが心配して、俺の手持ちを置いていくと言っているけど、俺としては皆の方が心配だ。
「ウルトラビーストがあんなに居るし、この先に何があるか分からない。だから皆を頼んだぞ、バクフーン。ラティアス達もな」
 俺のポケモン達は、無事を願うように鳴き声を一つあげてグラジオを追いかける。
「ほら、皆も行けって。後で必ず追いつくから」
「・・・・・・絶対ですよ」
 信じてくれたのか、また一つ足音が遠ざかっていく。
「ちょっ、リーリエッ。もうっ、無事じゃなかったらマオちゃんの料理食べさせてあげないんだから!」
「お気に入りの釣りスポットも教えてあげない」
 どんどん離れていくが、足音が一つ止まる。
「ユウキ。アイツが居るなら、本当に大丈夫なんだよな?」
 サトシは心配していないだろうが、確認をしてきたんだろう。
「あぁ」
 後ろを振り返ると、今までの騒ぎで集まったのか、ウルトラビースト達が押し寄せてくる。
「すぐに行くから、その間は頼んだぞ」
「分かった」
 サトシの足音が消えていくのを聞き届けて、マスターボールを握り締める。
「さぁ、出番だ__」
***
 サトシ達がソルガレオに乗りながら追いかけていると、ルザミーネが突然振り返る。
「いやっ、来ないで! じゃないと怖い事するからっ」
 そう言いながら投げたモンスターボールから、ポケモンが出てくる。
『ビビっ、エンニュート。洞窟の奥深くに棲み、フェロモンでメロメロにしたヤトウモリ達を侍らせている。どく・ほのおタイプ』
 現れたポケモンをロトムが解析していると、エンニュートがヘドロウェーブを放ってくる。
「バクガメス、かえんほうしゃだっ」
 迫り来る毒の霧を、バクガメスの攻撃で相殺する。
「ここは俺に任せろ」
 カキがソルガレオから飛び降りると、エンニュートの相手をすると伝える。
「・・・・・・わかったっ、また後でな!」
 サトシ達が一瞬戸惑うも、直ぐにルザミーネを追いかける。
「バクガメス、ドラゴンテールッ。ガラガラはフレアドライブだ!」
 二体の攻撃が飛んでいくが、エンニュートは俊敏な動きで避けていく。
「シャアッ」
「しまったっ、バクガメ__」
 エンニュートのりゅうのはどうがバクガメスに当たり、ガラガラは猫だましで怯んでしまって動けない。
 トドメのヘドロウェーブが出され、絶体絶命。
 その時、バクガメス達の炎では無い攻撃がヘドロウェーブをかき消した。
「お前、バクフーンッ。残ってくれたのか!?」
「バクファーッ」
 カキ達を守るよう構えていたのは、ユウキのバクフーン。
「ありがとう。力を貸してくれ!」
 __毒の炎と三つの炎が対抗し、ぶつかり合う。
***
「もう帰ってっ、これはルザミーネのモノなんだから!」
「ルザミーネ?」
 追いかけていると、子供のように癇癪をおこすルザミーネ。
「やっと会えたのっ。もう離さないんだからぁっ」
「操られてる、のでしょうか?」
 様子がおかしい母に対して、リーリエが苦しそうに自身の胸に手を置く。
「だろうな。だが、あれは本音だろう。母さんはずっとウルトラビーストに会いたいと願い、研究を続けてきた。その願いは今、叶ったんだ」
「そんなっ、取り込まれてるんだよ!?」
 マオの指摘に唇を噛むグラジオ。
「母さんはそう思ってないんだろう。俺達の事は、やっと手に入れた玩具を取り上げようとしてる嫌な奴らだと思ってる」
「嫌でも助けなきゃ」
 そのスイレンの言葉を踏みにじるよう、ボールが三つ飛んでくる。
「ドレディアとミロカロス、それにムウマージ。どの子もお母様が大切にしていたポケモンです」
 立ちはだかる三対のポケモンは、主の脅威を排除するためにそれぞれ技を放った。
「っ、アママイコ、マジカルリーフッ」
「アシマリ、バブル光線っ」
「ビリビリちくちくで受け止めて!」
 エナジーボールは吹き飛び、ハイドロポンプは逸らされて十万ボルトはトケデマルに引き寄せられた。
「ここは私達三人に任せてっ」
 マオとスイレン、マーマネが離脱してこの場に残る。
「サトシ達は先に__あれ?」
「バンギラスにマリルリ、ライコウ!? 一緒に戦ってくれるの?」
 驚くマーマネ達の前に立つ、ユウキのポケモン達。
「バンギラス達が居るなら大丈夫だろうけど、ニャビーとモクローも頼むっ」
『ボクも残ってサポートするロトーッ』
 サトシ、グラジオ、リーリエの三人はマオ達に任せて去って行く。
「やるよっ、アママイコ。バンギラスもお願い!」
「アシマリ、マリルリ。頑張ろう」
「トケデマルとデンジムシ、頼んだよっ。・・・・・・ライコウ達って何の技が使えるの?」
『ボクにお任せロトッ』
 __二人の少女と一人の少年が、歴戦のポケモン達と力を合わせて立ち向かう。
***
 追われているルザミーネは、更にポケモンを繰り出す。
「どうして邪魔するのっ。嫌いっ、大っ嫌い!」
 悲鳴を響かせながら出したポケモンに、グラジオがシルヴァディから飛び降りた。
「あのアブソルは・・・・・・。サトシ、リーリエと先に行け」
 アブソルがサイコカッターをソルガレオに飛ばすと、
「お前の相手は俺だっ。ブラッキー、悪の波動!」
 ルガルガンとシルヴァディが立ちはだかり、ブラッキーがサトシ達への攻撃を受け止める。
「あぁっ、ここは任せるよ!」
 サトシとリーリエを見送ったグラジオは、アブソルを睨み付ける。
「ブラッキーの良き特訓相手だったな、お前は。・・・・・・正気に戻してやるっ」
 __懐かしき再会は、火花を散らす。
***
「なんでまだ追いかけてくるの? もう・・・・・・嫌」
 ルザミーネの顔に悲痛の色が表れると、懐のボールからポケモンが飛び出して、サトシ達の前に立ちはだかる。
「ピクシー・・・・・・」
 立ち止まったソルガレオから、ゆっくりと降りたリーリエは持っているピッピ人形を抱きしめた。
「お母様のポケモンの中で、一番のお友達でした。だから、ここはわたくしに__」
 ピクシーと向き合うリーリエに、ムーンフォースが当たりそうになるが、
「いいぞっ、ルガルガンにラティアス! そのままリーリエを頼むっ」
「お母様をお願いします」
 リーリエの想いを受け止めて、サトシとソルガレオは疾走していった。
「ピクシー、目を覚ましてっ」
 しかしピクシーに声は届かず、返事はムーンフォースで返してくる。
「シロン、こなゆきっ」
 カバーしきれなかった分は、ラティアスとルガルガンが受け止め、技が止まった瞬間にリーリエはピクシーへと歩み寄る。 
 近づかせないと、更にマジカルシャインが発動するが、ルガルガンの岩落としで弾き、ムーンフォースはサイコキネシスのエスパー同士で打ち合う。
「思い出してください、わたくしと・・・・・・ピッピ人形と一緒に遊んだあの日々を」
ピクシーは、自分に近づくリーリエに何かを感じて一歩後ずさり睨む。
「わたくしがママになって、ピクシーはこのピッピ人形のお姉ちゃん。毎日家族になって遊んでいたんですよ」
 触れ合える距離までに近づいたリーリエは、ピクシーに、温もりを伝えるよう抱きしめる。
「ピッピ人形に触れて、感じて、思い出してください。ウルトラビーストに囚われていても、私たちと一緒に過ごした日々は、あなたの心が、体が、決して忘れてはいないはずですよ」
 リーリエの言葉を聞く度に、理解できない胸の痛みに襲われて、顔を歪ませるピクシー。
「もう離しません・・・・・・あなたも、お母様も、ポケモン達も。わたくしは取り戻したいのです」
「ビックッ、シーッ」
 身の回りの全てを破壊しようと、ムーンフォースのエネルギーを溜め始めるピクシー。
「・・・・・・大好きよ。ピクシー」
 たとえ自分に敵意を振り翳されても、微笑みを崩さないリーリエ。
 ピクシーから放たれる虹色のエネルギーが、辺り一帯を包み込んだ。
 その時、リーリエを見守っているポケモン達、中でもシロンが光で姿が見えなくなったリーリエを心配して鳴き声を上げる。
「コーンッ」
 今すぐに駆けつけたいシロン。光が徐々に収まると、

「ピクシー・・・・・・?」
 眩しくて瞑っていた目を開けたリーリエが、大人しくなったピクシーに声を掛けた。
「ピッ、ピクシッ」
 剣呑な雰囲気は収まり、リーリエとの再会に喜ぶピクシーが抱きついた。
「思い出したんですね! 良かったッ」
 __再開を喜びながらも、少女達は家族を救う為に団結する。
***
 

 __少年少女がそれぞれの戦いに身を投じる中、紫水晶に輝くこの宝石のような世界の宙に、一閃。
 その一筋の光は、煌びやかな翠玉色だった。