転生先はポケモン 13話

シチューに必須なピカチュウ?

 今日は、マオに新メニューを作ると言われてアイナ食堂に集まっていた。
「どんなのが出るんだろうなぁ」
 サトシが涎を垂らしながら穂杖をついていると、奥のキッチンからマオが出てくる。
「みんなーっ。今日は新メニューの試食会に来てくれてありがとう! もうすぐ出来るから、待っててねっ」
 再びマオがキッチンに引っ込むと、目の前から腹の音が鳴る。
「うーん、待ちきれないよー。お昼抜いて来たから、早く食べたい」
 マーマネがお腹を押さえながら言った。
 暫く待っていると、店内に美味しそうな匂いが漂ってくる。
 ふと、ポケモン達が遊んでいる所を見ると、ピカチュウが居ないのが見える。
「あれ、サトシ。ピカチュウは?」
「ん、さっきマオが連れてった」
 どうやら、ピカチュウの手伝いが必要で連れていったみたいだが……。
 何か嫌な予感がすると、思った瞬間__。
 キッチンから激しい電気が放たれた。
「な、なんだ!?」
 突然の事に皆が驚き立ち上がると、マオが手に料理を持って出て来る。
「お待たせー」
「あの、大丈夫ですか?」
 マオは電撃を浴びたのか、所々焦げていた。
 リーリエがマオの姿を見て、心配そうに聞く。
「えへへ、大丈夫だよ」
 マオはそう言って、テーブルに料理を並べていく。
「じゃーん! 幻のアローラシチューだよっ」
「美味そうだな」
『いただきます!』
 手を合わせた後に、皆が一斉にシチューを口に運ぶ。
 ……なるほど、これは。
『ビビビビビビッ!』
 シチューを食べた者は体が痙攣し、テーブルに倒れ伏せる。
「どう? ビックリした? 美味しい?」
 マオが期待の眼差しで聞いてくる。
「この料理は、一体……」
 カキが、満身創痍でマオに問いただす。
「ピリッとした後味がたまらないでしょー? それこそが幻のアローラシチューの特徴なんだって!」
「これは、ピリッとではなく……」
「ビリビリだよね……」
「ま、まるでピカチュウの電撃をくらったみたいだ……」
 サトシが苦笑いで顔を上げてそう言うと、ピカチュウが反応して此方を向いた。
「ピカ?」
 ……。
「なぁ、マオ。まさか」
 嫌な予感が当たったと思い、マオに聞く。
「そうっ。ピカチュウの十万ボルトを加えてみましたー!」
 だからこんなに痺れたのか……。
「えへへ。でも、ちょっと刺激が強すぎたかな?」
 ちょっとどころじゃないと思います。
「あの、そもそも幻のアローラシチューとは?」
 リーリエが電気で乱れた髪を整えながら、マオに質問する。
「えっとね__」
 マオが口を開いた時、お店の扉が開いて人が入って来る。
「やぁ、みんな。いらっしゃい」
「あ、マオパパ」
 スイレンは此方にやって来る人物、マオのお父さんに先ほどの質問をした。
「マオパパ、幻のアローラシチューって?」
 マオのお父さんは知っている様で、顎に手を当てながら答える。
「なんだい急に? えっとね、昔はお祭りや式典がある度に作られていたんだが……時代と共に忘れ去られてしまってね」
「それで、幻……」
「知ってた?」
 スイレンがカキやマーマネに聞くが、皆は首を横に振る。
「それなら、マオはどうやってこのシチューを作ったのですか?」
 リーリエはマオに何処で知ったのかと問いかける。
「実はね、シチューのレシピをお兄ちゃんが送ってくれたの」
 マオは、手に持っているノートを見せながら答える。
「兄がいたのか」
 ぽつりと言うと、マオは頷いた。
「うん。今は料理修行の旅に出ててね、旅先で見つけた古い文献にアローラシチューの作り方が載ってたんだって」
 料理修行の旅……。何故か、伝説の厨具を探す旅に出た兄の姿を想像してしまった……。
「それでね、レシピによるとシチューを完成させるには、やまぶきの蜜が必要みたいなんだ。それがピリッとした後味を残す大切な材料なんだって!」
 すると、リーリエが何かに気づいたように口を開いた。
「やまぶきの蜜……。確か、今は時季外れで入手は難しいのでは?」
「うん、だからピカチュウに頼んで……」
「だからって何故、代用に十万ボルトッ。わからん、まったく分からない。ホワイ!? 理解に苦しむ」
 カキが頭を押さえてそう言うと、マオは落ち込みながら食器を片す。
「あーあ。どうにか完成させて、アイナ食堂の看板メニューにしたかったんだけどなー」
 ふむ……。
「んぐっ。まぁ刺激は多少強いが、それはビリビリくるスパイシーな味で一部の人にはウケるんじゃないか?」
「あ、ユウキもそう思う? この刺激がたまらないよねー」
 俺に続いて、マーマネもこの料理を褒める。
「え、本当に!?」
「うーん、スパイシー?」
 マオが嬉しそうにし、スイレン達は奇怪な目で俺とマーマネを見ていた。
「よし。みんな、お腹空いてるだろう? 今から代わりの料理を作ろう」
 マオのお父さんが、キッチンから顔を出して腕を捲りながら言う。
「いいんですか?」
 カキが嬉しそうに、顔を上げた。
「あぁ、楽しみにしてくれ」
『やったー』
 シチューを一口で断念した皆が喜んだ。
****
『ご馳走様でした!』
 マオパパの料理に舌鼓を打った皆は、それぞれ帰路につく。
「ほらロトム、帰るぞ」
「ちょっと待つロト、今アイナ食堂の料理を図鑑にアップロードを……」
 ロトムを待っているせいで、サトシに置いて行かれてしまった。
 てか、料理のデータとか図鑑にいるか?
「ユウキ、今日はありがとね」
 椅子に座って待っていたら、マオが話掛けてきた。
「いや、こっちこそな。そういや、やまぶきの蜜が時季外れってどういう事なんだ?」
 ロトムはまだ動きそうにないので、暇つぶしに聞いてみる。
「えっとー……」
 マオは何やら口ごもっていると、マオのお父さんがキッチンから出てきた。
「マオに代わって説明しよう。やまぶきの蜜は、ある限られた時季にしかとれない。例外を除いてね」
「例外!?」
 マオは驚くが、お父さんは肩を竦めて笑う。
「たしかね。昔、じいさんが言ってた事だから」
「えー。超ザックリしてる……」
 ふむ、例外か……。
 落ち込んだマオに、ある提案をしてみる。
「なぁ。明日休みだし、探しに行ってみないか?」
「え、でも」
「どうしても食べたいんだ。(マオの手料理)好きだし、きっと最高に美味しいのが出来ると思うんだ。マオ、(幻のシチューを)凄く食べたい」
「ふぇっ、いき、いきなり何を!?」
 言葉が少し抜けてしまった気がするが、きっと伝わっただろう。
 いきなり料理の腕を褒められて照れてるのか、顔を赤くしているし。
「んんっ。分かった、明日、探してみよっか」
 そこに、ロトムがやる事を終えて来た。
「お待たせロトー。ん? マオの顔が赤いロト、まるで恋す__」
「そ、そうだ! ロトムも明日付き合ってよ! じゃ、また明日ねっ」
 何か言おうとしたロトムを、マオは掴んで俺に押し付ける。
 そして、俺達は店の外に押し出された。
****
 次の日。
「ねー、ユウキ。お父さんの説明、かなりザックリしてたし……やみくもに探しても見つかるかどうか」
 不安そうなマオに、今日一緒について来たロトムが得意げに喋った。
「ふっふふのふー。こんな時こそ僕の出番ロトー。なんと、データによると……オドリドリはやまぶきのミツが好物ロト。だからオドリドリを見つければ」
「追いかけて探せばいいのか」
「でも、今から探しても見つかる確率は八パーセントロト」
 あまり現実的ではない数値に、マオは顔を暗くする。
「なに、八パーセントもあるんだ。きっと見つかる」
 マオもその気になったのか、気合を入れる。
「うんっ、そうだね! 絶対見つけるんだからっ」
 そして、俺達は森中を歩き回った。
 マオを肩に乗せて、木の上を確かめたり……。
「居たか?」
「ううん。……重くない?」
 洞穴の中を覗いたり……。
「気をつけろよー」
「うん__。キャーッ、ゴルバッドが襲ってきたーっ!」
 そして……。
「探し始めてから、五時間が経過したロト」
 少し疲れ、野原に腰かけて休憩する。
「見つからないな……」
「うん。でも、諦めないっ。絶対に、やまぶきの蜜を手に入れるんだから。幻の料理を、アイナ食堂の看板メニューにするために!」
 マオは、鼻息荒くそう宣言する。
「燃えてるな……。でも、なんでそんなに看板メニューに拘るんだ? 今だって美味しい料理は、いっぱいあるだろう?」
 するとマオは、アマカジを片手に微笑む。
「私の夢はね、アイナ食堂をアローラ一の食堂にすることなの! 看板メニューでお店を知ってもらって、お父さんの料理を沢山の人に食べてもらいたいんだっ!」
「アローラ一か、凄いな」
「完成したら、まずはユウキに食べて欲しいな」
 マオは、はにかんだ笑顔でそう言った。
「おうっ。絶対に見つけ__。あっ」
 マオに抱かれているアマカジを見て、閃いた。
 てか、なんで気づかなかったんだ俺。
「どうしたの? ユウキ」
 マオが、途中で言葉が途切れた俺を不思議そうに見る。
「いや、オドリドリが見つかるかもしれないと思ってな」
「どういう事ロト?」
「どうやって!?」
 ロトムとマオは、テンションを上げて聞いてくる。
「アマカジだよ。あまいかおりを出せるだろう? それで野生のポケモンをおびき寄せれば……」
「なるほどっ、いいかも!」
 そしてマオは、アマカジを背の高い岩に乗せて、指示を出した。
「アマカジ、あまいかおりをだして!」
「アンマッ!」
 体を回転させながら、広範囲にかおりを出していくアマカジ。
 すると、一分と経たないうちに鳥ポケモンなどが集まって来る。
「よし、オドリドリを探そう」
 俺達は辺りを見渡して、目的のポケモンを探す。
「うーん、虫ポケモンが多いなぁ」
 集まりすぎて、中々大変になって来た。
「あ、二人ともあそこロトッ!」
 何故か、ペリッパーに喰われてるロトムがアマカジを指さす。
「マジカッ、マジカッ!」
 アマカジを見ると、オドリドリに啄まれていた。
「「オドリドリ!?」」
 俺とマオが声を揃えて驚くと、あまいかおりが止まり、野生ポケモン達は森に帰っていく。
 オドリドリも正気に戻ったのか、飛んで行ってしまった。
「あっ、追いかけよう!」
「うんっ」
 俺達は、離されないように疾走する。
 だが、オドリドリは此方を一瞥すると、スピードを上げた。
「このままじゃ……。アマカジ、お願いっ」
「アンマッ」
 そこで、マオは走りながらもアマカジにかおりを出させた。
「ドリッ?」
 すると、オドリドリは引き寄せられるようにアマカジに飛んでいく。
「よしっ」
 だが、アマカジはあまいかおりを止めると、また飛んで行ってしまった。
「あ、アマカジッ、お願いッ」
「アンマッ」
 再び、オドリドリは飛んでくる。
 あまいかおりを止めれば、また飛んで行く。
 そしてまた……。
……無限ループって怖い。
 そんな事を繰り返しながら暫らく走っていると、アマカジが枯れた様子でマオの元に落ちていく。
「アマカジ……こんなになるまで、ありがとね」
「後は、俺達に任せてくれ」
 オドリドリを見ると、洞窟の中に入って行くのが見えた。
「あそこかっ!」
 追いかけて、洞窟を抜けると……。
「これ、もしかして」
 マオが驚いた様子で、言葉を溢した。
 洞窟を抜けた先にあったのは、山吹色の花が辺り一面に咲いている光景だった。
「間違いないロト。あれは、やまぶきの蜜が取れる花ロト」
「ホントに見つけられた……」
「良かったな、マオ」
「うんっ!」
 喜んでいるマオは、早速やまぶきの蜜を採ろうと花に近づく。
 俺も、花を近くで見るためマオについて行くと__。
 突然、足元から網で掬い上げられて、俺とマオは捕まってしまった。
「なんだ!?」
「なんだ!? と、言われたら」
「聞かせてあげよう、我らの名を」
「花顔柳腰・羞月閉花、儚きこの世に咲く一輪の悪の花、ムサシ!」
「飛竜乗雲・英姿颯爽、切なきこの世に一矢報いる悪の使徒、コジロウ!」
「一蓮托生・連帯責任、親しき仲にも小判輝く悪の星、ニャースでニャース!」
『ロケット団、参上!』
 名乗り口上を聞くの、久しぶりだなー。
 いや、そんな事思ってる場合じゃないな。
「作戦成功なのニャ」
「やまぶきの蜜は、私達が全て頂いて行くわ!」
「ニャース、ちゃっちゃとやってくれ」
 ロケット団のニャースは、掃除機のようなものを持って花に近づく。
「この万能お宝吸引マシンで、ばっちり全部吸い取るニャ」
 そして、そのマシンにどんどん花が吸い取られていく。
「や、やめて! せっかく見つけたのにっ」
「へへーん。そこで指を咥えてみてなー」
「くそっ。どうにかこの網を……」
 脱出するために、腰に付いているモンスターボールを取ろうとするが、網に絡まって腕が動かない。
「そうだ、アマカジッ!」
 必死に腕を動かしていると、突然マオが叫んだ。
 下を見ると、アマカジがあまいかおりを出して、ニャースの動きを止めていた。
「おい、ニャース。顔がだらしないぞー」
「そうよ、しっかりしなさい。ペルシアンに負けてもいいの?」
「はニャ!? ぜ、全然大したことないニャ」
 だが、すぐ正気に戻って再び花を吸い取っていく。
「ア、アンマーッ!」
 大したことないと言われて怒ったのかアマカジは、あまいかおりを激しく出した。
 そして、突如アマカジが光に包まれる。
 光が収まった時、そこにアマカジの姿は無く__。
「アマーイッ!」
 可愛らしいポケモンが立っていた。
「アマカジがっ」
「進化した!?」
 俺とマオが驚いていると、一緒に網の中にいたロトムが解説を始めた。
「アママイコ……フルーツポケモン。 くさタイプ。身を守る為、ヘタが発達。硬いヘタから繰り出される往復ビンタはかなりの威力」
 なるほど。下では早速ニャースが、ビンタの威力で泣かされていた。
「アンマイッ」
 アママイコは跳び上がって、網を破壊してくれた。
「よし、これなら!」
 ボールを取りだし、ポケモンを呼び出す。
「バクフーン、きあいだまだっ!」
 力を溜めたバクフーンは、ニャースに向かって攻撃を放った。
「ニャー!?」
 ニャースが吹っ飛ばされると同時に、花を吸っていたマシンが破壊される。
「アママイコ、往復ビンタッ」
 硬い頭のヘタで、ロケット団は頬を何度も打たれる。
「て、撤退よー」
 のそのそと逃げていくロケット団に追い打ちを掛けようと、バクフーンに技を指示する。
「もう一度、きあいだまで奴らを吹き飛ばせ!」
 そして、渾身の力が放たれて__。
「クウッ!」
 キテルグマに攻撃を塞がれる。まぁ、予想はしてたが。
『なにこのかんじー』
 やはり、ロケット団はキテルグマに抱えられて去って行った。
****
「お待たせっ。今度こそ、幻のアローラシチューだよ!」
 俺達は、再びアイナ食堂に集まっていた。
「アマイッ」
 アママイコが運んでくるシチューは、凄く美味しそうだ。
「進化して、お手伝いが楽しそうですね」
 リーリエ達は、アママイコを見て微笑んでいる。
「さて……じゃあ」
 カキがスプーンを握り締めて、固唾を呑む。
『いただきますっ』
 ……これは。
「ど、どうかな……?」
 マオが不安そうな顔つきで感想を聞く。
 シチューを一口食べて黙ってしまった俺達は、一斉に顔を上げて__。
『美味しいーっ!』
 それを聞いたマオは、喜びを表して腕を上に突き出した。
「やったーっ!」
 どんどんシチューを口に運んでいく皆は、食べながら感想を言っていく。
「ピリッとする後味がいいですね」
「うん、幻の美味しさ」
 俺達、男性陣はあっという間に平らげて……。
『おかわりっ』
「これは美味しいぞ!」
「まぁ、僕はこの前のもいいと思うけどね」
 マオは皿を回収しながら、嬉しそうに口を開いた。
「みんな、ありがとう! これも、一緒に探しに行ってくれたユウキにロトム、アママイコのおかげだよ!」
 あぁ、本当に苦労して探した甲斐がある。
「グゥー……」
 感動に浸っていたら、目の前のマーマネからお腹の音が鳴った。
「マーマネ……」
 苦笑いでマーマネを見ると、慌てて弁解する。
「だ、だってっ! これを食べれるのは今日で最後だと思ったら……寂しくて」
 寂しくて腹が鳴るってなんだ。
「マーマネったら……」
「普通、寂しくてお腹が鳴る?」
 女性陣が白い目でマーマネを見ていると、おかわりを持ってきたマオが笑顔を浮かべて。
「安心して、看板メニューにはならなかったけど、期間限定で残す事にしたから」
「やったー!」
 マーマネの食い気に、皆は呆れる。

 そして、試食会が終わり、皆はそれぞれ帰って行く。
「今日はありがとう。美味しかったよ、マオ」
 別れ際、マオに今日のお礼を伝える。
「ううん、こっちがありがとうだよ」
「それじゃ、またな」
「あ、待ってっ」
 帰ろうとすると、マオは俺の腕を掴んで止める。
「……ねえ。また、必要な素材とかあったら一緒に探してくれる?」
 何故かそんな事を聞いて来た。
「当たり前だろう? マオが困っているなら、すぐに助けるさ」
 思っている事を言うと、掴んでいた手が離された。
「うんっ。ありがとう!」
 夕日のせいか、赤くなっている顔で微笑む彼女だった。