転生先はポケモン 8話

海で釣りパニッククロバット

「サトシ、まだかー?」
「んぐぐっ、はむはむっ」
 イワンコとじゃれながら、朝食を急いで食べているサトシに声を掛ける。
「げほっ、もう少し待ってくれ!」
 今日もサトシは寝坊して、遅刻しそうになっていた。
 チラッと時計を見ると、今から登校しなければ間に合わない時間になっていた。
「あー、悪い。先に行ってるぞ」
 俺は鞄を持って、家を出る。
「えっ、待ってくれよー!」
 後ろから呼び止める声を無視して、駆け足でスクールに向かう。
海沿いを歩いていると、砂浜でスイレンとアシマリが何やら特訓をしているのが見えた。
「おーい、スイレン!」
 挨拶をしようと、片手をあげて軽く手を振る。
 スイレンは此方に気づくと、アシマリを抱えて歩いてくる。
「おはよう、ユウキ」
「おはよ。悪い、なんか邪魔したか?」
 技の特訓らしき事をしている最中に呼んでしまったのに若干の罪悪感を感じていると、スイレンは微笑みながら首を横に振る。
「ううん。そろそろ行かないと遅刻しちゃう所だったから、助かった。一緒に行こう?」
 スイレンの誘いを快諾し、一緒に登校する。
****
 今日最後の授業が終わると、ククイ博士は明日の予定を話し出す。
「さて、明日は課外授業。海のポケモンとの触れ合いがテーマだ」
 博士は、釣り竿を取り出しながら説明する。
「そのための釣り竿。そして、海といえばスイレン。明日はスイレンに特別講師を頼んでいる。宜しくな、スイレン」
 スイレンは、多少緊張した様子で立ち上がる。
「は、はい。頑張ります」
「そういや、初めて会った時も釣りをしてたな」
 俺がそういうと、笑顔で答える。
「うん、海のポケモン。というか、水ポケモンが好きだし」
 しかし、釣りとなればポケモンに触る事になる。
 同じ事を思ったのか、マーマネはポケモンを触れない彼女に尋ねる。
「明日は大丈夫なの? リーリエ」
 だが、彼女は自信満々に言葉を返す。
「心配ありません。きちんと対策を用意してあります!」
 余裕な様子を見せる彼女に、スイレンはアシマリを抱えて近づく。
「良かった。明日は安心だね」
 その時、抱えてるアシマリがスイレンの腕を抜け出して、リーリエの膝の上に乗る。
「アウッ、アウッ」
 居心地が良いのか、アシマリは嬉しそうに手を叩いて鳴く。
「こらこら、ダメだよ」
 リーリエの隣の席に座っている俺は、慌ててアシマリを抱き上げ、スイレンの腕の中に返す。
「あ、リーリエッ、ごめん。大丈夫?」
 スイレンが心配して声を掛けるも、リーリエは真っ白に燃え尽きた様子で口を開く。
「だ、だいじょうぶです。もんだいありません」
 本当に明日は大丈夫だろうか? 心配だ。
「じゃあ皆、明日は釣り竿を忘れないようにな」
 だが困った、釣り竿は持っていない。
 サトシも同様なので、博士に聞いた。
「博士、俺とサトシは持ってないよ」
 ククイ博士は少し黙考すると、思い出した様に答える。
「たしか、地下の研究室にあったぞ。だが、一本しか無かったかな?」
 一本しか無いのに困っていると、スイレンが挙手して話す。
「なら、貸してあげる。家に沢山あるから」
 俺は、スイレンのありがたい提案を受け入れる事にした。
「助かるよ。サトシ、釣り竿どっち借りる?」
「うーん。俺は家にあるやつでいいや」
 そういう訳で、俺はスイレンの家に行く事になった。
****
 スイレンと一緒に下校していると、寄り道をしたいと言ってきたので彼女について行き、道草を食う。
 暫く歩いていると、砂浜に出た。
「ここは今朝、スイレンがいた場所か」
「うん、ここで毎朝特訓してるんだ」
 すると、スイレンの腕の中に居たアシマリは砂浜に降りた。
「アウッー!」
 アシマリは、鼻の先から水の風船をどんどん生成していく。
「もしかして、この技の練習を?」
「うん、バルーン。大きく出来るようにしたいんだ。それにここ、アシマリと出会ったとこなんだよ」
 スイレンはアシマリと出会った時の事を語ってくれた。
 昔、スイレンが釣りをしていた所に、砂浜でスカル団にいじめられているアシマリを見かけたそうだ。
 アシマリを助けて、ポケモンセンターに連れて行き、様子を見続けていたら仲良くなって、スイレンのポケモンになった。
「へぇ。いい主人に会えて良かったな、アシマリ」
 俺がアシマリに向けて言うと、同意するように鳴いた。
「いつか、大きなバルーンの中に私が入って海の中、どこまでも……どこまでも……それが私の夢なんだ」
「いつか、出来るといいな」
 そう言うと、スイレンは少し顔を俯かせる。
「でも、最近上手くいかなくて……。それに、そんな大きさのバルーンなんて図鑑とかで見た事ないから、自信がなくなってきちゃって……」
 そんな弱音を吐いたスイレン。
 先程、夢を語ってくれた顔とは反対に沈んだ表情。
 そんな顔を見ると、胸が痛む。
「やってみなきゃ、わからない」
「え?」
 ポツリと。溢した言葉に反応し、此方を見るスイレン。
「論理的とか、理屈とか……そんなの抜きに、やらなきゃわからないよ。出来ないからって、諦める理由にはならない」
 やってみなくちゃわからない。
 これは昔、サトシに言われた事だ。
 元々、そんな根性論は好きじゃなかった。
 だけど、サトシはいつもそう言って、結果を出してきた。
 そんなサトシを見ていたら、俺もそんな言葉を言うようになっていた。
「やらなきゃ、わからない……。うん、そうだね!」
 スイレンは、言葉を反復する様にアシマリと向き合う。
「アシマリッ、バルーンッ!」
 指示を受けたアシマリは、鼻先からバルーンを作り出す。
「まだ、もっともっと大きくっ」
 アシマリは苦しそうな顔をするが、バルーンはどんどん大きくなっていく。
 やがて、作り出された水の風船は、人が入れる大きさになっていた。
「す、すごいよアシマリッ! よし、このまま__」
 アシマリのバルーンを、その大きさのまま浮かそうとしたが、割れてしまい辺りは水浸しになる。
 俺とスイレンは、アシマリの傍に居たため水を被り、びしょ濡れになってしまった。
「ふふっ」
「ははっ」
 そんなお互いの姿を見ると、笑いが込み上がってくる。
「夢の達成は近そうだな」
 俺がそう言うと、スイレンは無邪気な笑顔で言葉を返した。
「うんっ。その時は、ユウキも入れてあげるっ」
 そういえば、スイレンの笑顔に見惚れるのはこれで二度目だったな。
 俺はそんな事を考えていた。
****
「ただいま」
「お邪魔します」
 スイレンの家に着いた俺は、挨拶をして家にお邪魔する。
 すると、奥の方からスイレンそっくりの小さな双子が出てきた。
「だれだれ!?」
「おにいさん、だれー?」
 突然の勢いに戸惑っていると、スイレンが助け舟を出してくれた。
「もう、いきなり飛びついちゃダメだよ。ユウキ、紹介するね。ホウとスイ、妹達だよ」
 なるほど、激似だな。
「スイレンそっくりな可愛い子達だな」
 俺が妹二人を撫でながら言うと、この子達は爆弾を落とした。
「わかったっ。おねぇちゃんのボーイフレンド?」
「ボーイフレンドッ、ボーイフレンドッ」
 たしか、彼氏って意味だっけ?
「いや、違うよ」
「そう__」
 ん? 言葉が被ってしまって聞こえなかった。
「ごめんスイレン、今なんか言った?」
「……なんでもない」
……だったらその目をやめてください。
「ちがうの?」
「ほんとにほんと?」
「あぁ、本当だよ」
 俺がそう言うと、スイレンは何故か不機嫌な様子で俺の袖を引っ張る。
「釣り竿はこっち。来て」
 今日来た目的を思い出し、釣り竿を貸してもらった後、妹達含めてスイレンと軽く雑談して帰った。
 そして、次の日。
「……対策ってそれか?」
 宇宙服の様な奇抜な格好をしている、リーリエに聞く。
「はいっ。これを着ていればライドポケモンに乗れ、さらに釣り上げたポケモンにも触れます!」
「カッコイイ!」
 マーマネのセンスがわからん。
「よしっ。みんな準備できたな。今日はスイレンが先生だ、スイレン」
 ククイ博士がそう言うと、スイレンは緊張した様子で前に出てきた。
「で、では。みなさん、釣り竿を持ってライドポケモンに乗ってください」
 各々はラプラスに乗り、海を進んで行く。
 暫く進んで行くと、先頭にいたスイレンが突然止まり、此方に振り返る。
「着いた。海のポケモンには浅いところで暮らすもの、深いところで暮らすもの色々いるの。この場所、両方のポケモンが交わる不思議ポイントなんだ」
 そして、驚きの事を言う。
「ここなら、カイオーガだって釣れちゃう」
 いやいや……。
「カイオーガ!?」
 サトシは信じ込んでいるみたいだ。
「もうっ、スイレン。からかっちゃダメだよ」
 マオが突っ込むと、スイレンは小さく舌を出して笑う。
「てへっ。それじゃあ皆、釣り竿を用意して。そしてルアーを思いっきり海に投げ込む! コツは、浮きに反応があったらそのタイミングで……一気に巻き上げるっ」
 スイレンは説明しながら、ポケモンを見事に釣り上げた。
「釣れたら、ポケモンフーズをあげてスキンシップ」
 釣れたママンボウや、ラブカスと触れ合っているスイレンは、まるで海の女神のようだ。
「よーっし。俺達もやるぜ!」
 サトシ達も釣りを始めた。
 暫く釣り糸を垂らしていると、俺の竿が反応する。
「おっと、サニーゴか。 よしよし」
 リリースして、ポケモンフーズをあげながらサトシ達を見てみると。
「おっし、今だっ! ……あー」
「タイミングが早すぎるロト」
「まだかなー。あっ、……あれ」
「タイミングが遅すぎるロト」
『いちいち、煩いっ!』
 皆、苦戦しているみたいだ。
「釣れないね、カキ」
「マーマネ、勘違いするな。俺はほのおタイプの使い手。みずタイプとは相性がよくないんだ」
 それは言い訳っていうんだよ、カキ君。
 「来ましたっ!」
 声がしたリーリエの方を慌てて見ると、釣り竿を引っ張り格闘していた。
 釣り糸の先を見ると、水面から巨大な影が飛び出す。
「なっ、ミロカロス!?」
 リーリエが戦っていたのは、うつくしいポケモンのミロカロスだった。
「耐えてくれっ、すぐそっちに行く」
 俺はラプラスを移動させて、リーリエの後ろに跳び移った。
「くっ」
 リーリエの後ろから竿を一緒に支えて、ミロカロスを釣り上げようとするが、不意に体が宙に浮いた。
「っ!? リーリエ、竿を離すんだっ」
「は、はいっ」
 戸惑うリーリエから竿を奪うように取った瞬間、俺はミロカロスに引っ張られて海上に落とされた。
「ぷはっ。あぁー、ごめん。糸が切れて逃げられたみたいだ」
「いえ、大丈夫ですか?」
 リーリエに謝るが、気にしていないと言って、ラプラスに乗るために手を貸してくれる。
 その後、スポットを移動しながら釣りをしていると、砂浜に居る博士に呼びかけられた。
「おーいっ。そろそろ休憩にしようぜ!」
 お腹も空いたため、ラプラスを海岸に休憩させる。
「うーん、釣れなかったなぁ。午後は大物を狙うぞー」
 皆と会話をしながら、立てたパラソルの元に歩いていると。
 後ろから、ラプラス達の鳴き声が響き渡る。
 振り向くと、空の気球から吊るされている網の中に、俺達が乗っていたラプラスが捕まっていた。
「な、なんだ!?」
『なんだかんだと聞かれたら!』
 気球の中から、お馴染みの奴らが出てくる。
「でたな、ロケット団!」
「ちょっとっ! 登場シーン邪魔しないでよ!」
「うるせぇっ。前口上を書くの面倒くさいんだ! これからは省略しろっ!」
「ニャ、ニャにを言っているニャ?」
 おっと、つい何処かの電波を受信してしまった。
「こほん。ラプラス達を離せ!」
 俺がそう言うと、ロケット団は網の中を見て、訝しんだ。
「あれ、ちょっと。ライドポケモンの他にザコが入ってるわよ」
 網の中には、ラブカスやサニーゴも捕まっていた。
「……ザコ?」
 背筋が凍るような声が後ろからした。
 振り向くと、スイレンが顔を険しくしながらロケット団を睨んでいた。
「あいつら、許さない……」
 スイレンの激変に驚いていると、サトシが行動を始める。
「ピカチュウ、アイアンテールで網を壊すんだっ!」
 ピカチュウはロトムを足場にして跳んだ。
 そして、網は破壊された。が、落ちていくラプラスの真下には鋭い岩が突き出ているのが見えた。
「スイレンッ、バルーンでっ!」
 俺が最後まで言わなくても、理解してくれた様ですぐにアシマリに指示を出す。
「アシマリッ、バルーンッ! 凄く大きいのをっ」
 瞬時に作られていくバルーンは前に見た時よりも倍以上に大きい。
「今っ。ラプラス達を包んで!」
 大きさを維持したまま水の風船は飛んでいき、落とされていくポケモン達を包む。
「すごい、大きい……」
 マオ達は初めて見るバルーンの大きさに驚愕している。
「くっ、なら直接捕まえるてやる!」
 ロケット団はいつの間にか、砂浜に降りていて、此方に向かって来る。
「ピカチュウ!」
「アシマリ!」
 皆もポケモンを前に出し、俺も腰のボールに手を掛けた時、海の向こうからポケモンが走って来る。
「キューッ!」
 水上を走って来たのは、キテルグマだった。
「ちょ、ちょっとっ。あたし達まだ__」
「くそっ、またか__」
「ニャニャ__」
 ロケット団は、キテルグマに抱えられて去って行った。
『なにこれな感じーっ』
****
「さっきのバルーン凄かったな!」
「あんなバルーン、記録に無いロト。データをアップロードロト!」
 皆がスイレンとアシマリを褒めていると、博士が推測を語る。
「スイレンのポケモンたちを助けたいという思いが、アシマリの殻を破ることになったんだろう。最高じゃないか!」
 なるほど。スイレンの夢が叶うのは、本当に近いな。
「なぁなぁ、さっきのもう一回やってくれよ!」
 サトシが、スイレンとアシマリにそうせがむ。
「うんっ、アシマリ!」
 アシマリは鼻先からバルーンを出し、サトシに向けて包んでいく。
「おおっ」
 水の風船に包まれたサトシは、その状態で少し宙に浮く。
「あたっ」
 しかし浮いた瞬間に割れて、落とされたサトシは砂浜に尻餅をついた。
「あ、ふふっ。ごめん」
「アウアウッ」
 スイレンとアシマリは、小さく舌を出して笑った。


……まぁ、夢はいつか叶うさ。
 スイレンといつか、バルーンの中で一緒に海の中で散歩するのを楽しみに、皆と笑い合う。